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堂塔(どうたう)を建(たつ)る便(たよ)りを得(え)て候。是(これ)仏堂(ぶつどう)を造立(そうりう)すべき時節(じせつ)来(きた)り観音(くわんおん)の妙智(めうち)
力(りき)を以(もつ)て樹(き)を抜(ぬき)岩(いは)を頽(くづ)し給ひしならめと思(おも)ひ。山中(さんちう)を見巡(みめぐ)り候に巌(いはほ)の蔭(かげ)
に巨(おほい)なり【ママ 「る」とあるところか。 注】鹿(しか)一頭(いつひき)斃死(たほれし)して候ひき是(これ)前夜(せんや)観(くわん)【注】世音(ぜおん)の命(あふせ)を承(うけ)て樹(き)を抜(ぬき)岩(いは)を
頽(くづ)して労(つか)れ斃(たをれ)候ひしならめと思(おも)ひ彼所(かしこ)に埋(うづん)み印(しるし)に石(いし)を建(たて)《割書:今有 鹿(しか)|間塚(まづか)是也》置(おき)候と
いと長々(なか〳〵)と物語(ものがたり)ければ。田村丸(たむらまる)始終(しゞふ)を聞(きい)て深(ふか)く感(かん)じ。我(われ)も多年(たねん)観音(くわんおん)を
信仰(しんかう)し。土地(とち)を択(えら)み一 宇(う)の観音堂(くわんおんどう)を建立(こんりう)せんとおもふ事 久(ひさ)しけれども。いまだ其(その)
宿願(しゆくくわん)を遂(とげ)ず。然(しかる)に今日(けふ)不計(はからず)狩(かり)に出(いで)て此(この)山中(さんちう)に入。御僧(おそう)に面会(めんくわい)して右の物語(ものがたり)
を聞(きく)事 。偏(ひとへ)に観世音(くわんぜおん)の導(みちび)き遇(あは)しめ給ふところ成(なる)べし。我(われ)御僧(おそう)に力(ちから)を添(そへ)倶(とも)に
観音堂(くわんおんどう)を建立(こんりう)すべし。我(われ)皈宅(きたく)せば工匠(かうせう)人夫(にんぶ)を招(まね)き集(あつ)め。明日(めうにち)当山(とうざん)へさし越(こさ)
ん間。御僧(おそう)指揮(さしづ)して其(その)霊木(れいぼく)を伐(きら)せ。先(まづ)観音(くわんおん)の霊像(れいぞう)を彫(きざ)み給へと申されけるに
ぞ。延鎮(えんちん)大いに歓喜(くわんぎ)し。如斯(かくのごとく)なれば拙僧(せつそう)が年来(ねんらい)の願望(ぐわんもう)成就(じやうじゆ)せん事 何(なん)の疑(うたがひ)か
【注 国立国会図書館デジタルコレクション本には「る」とある。】
【文字の薄れた部分は別本により補填。】