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あらんとゝ【注①】拝謝(はいじや)しければ。田村丸(たむらまる)堅(かた)く契約(けいやく)して私宅(したく)へ帰(かへ)り。其(その)翌日(よくじつ)多(おほ)くの工(かう)
匠(せう)人夫(にんぶ)并(ならび)に糧(かて)金銀(きんぎん)等(とう)を音羽山(おとはやま)の延鎮(えんちん)に送(おく)りけるにより。延鎮(えんちん)怡(よろこ)びに堪(たへ)
ず。彼(かの)老樹(らうじゆ)を伐(きら)せ。其(その)材(さい)を以(もつ)て御長(みたけ)八 尺(しやく)千手(せんじゆ)【千は手の誤記】千眼(せんげん)の観音(くわんおん)の霊像(れいぞう)を彫(てう)【ちに見えるは誤記 注②】
刻(こく)にぞかゝりける。然(しかる)に田村丸(たむらまる)今度(こんど)東夷(とうい)征伐(せいばつ)の副将軍(ふくせうぐん)の任(にん)を蒙(かふむ)りて大に悦(よろこび)
是(これ)先祖(せんぞ)の名(な)を引興(ひきおこ)し子孫(しそん)繁昌(はんぜう)の基(もとゐ)を開(ひら)く端(はし)なり。然(しかれ)ども仏(ぶつ)菩薩(ぼさつ)の加護(かご)を
祈(いのら)ずんば全(まつた)き勲功(くんかう)は立(たて)がたかるべしと思(おも)ひ。音羽山(おとはやま)なる延鎮(えんちん)の菴(いほり)へ詣(まうで)けるに。早(はや)
千手観音(せんじゆくわんおん)の像(ぞう)大半(たいはん)成就(ぜうじゆ)しければ。田村丸(たむらまる)大いに怡(よろこ)び延鎮(えんちん)に向(むか)ひ。我(われ)今般(こんはん)勅命(ちよくめい)に
依(よつ)て東夷(とうい)征伐(せいばつ)の副将軍(ふくせうぐん)の任(にん)を賜(たま)はりたり。師(し)我(わ)が為(ため)に観世音(くわんぜおん)に祈誓(きせい)して
味方(みかた)の利運(りうん)を祈(いの)り給へ。我(われ)も自([み]づから)願(ねが)はんとて。過半(くわはん)彫(きざみ)【注③】たる仏像(ぶつぞう)に向(むか)ひ礼拝(らいはい)し。願(ねかはく)は
大 慈(し)大 悲(ひ)観世音菩薩(くわんぜおんぼさつ)大威(い)神力(じんりき)を加(くはへ)て東夷(とうい)を安(やす)く夷(たいらげ)しめ給へ凱陣(かいぢん)の後(のち)は
堂塔(どうたふ)を建立(こんりう)し永(なが)く此地(このち)に鎮座(ちんざ)なし奉らんと。丹誠(たんせい)を凝(こら)して祈念(きねん)し。延鎮(えんちん)に
【注① 国立国会図書館デジタルコレクション本には「あらんとて」。】
【注② 国立国会図書館デジタルコレクション本には「てう」。】
【注③ 別本にて補填。】