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田村丸(たむらまる)早(はや)く身(み)をかはして是(これ)を避(さけ)るとひとしく。鉞(まさかり)【金+越は俗字】の柄(え)を左手(ゆんで)に掴(つかん)でつと曳寄(ひきよす)る
に。金剛力(こんがうりき)に曳(ひか)れて大 熊(ぐま)丸。覚(おぼ)へず馬(むま)もろともに曳寄(ひきよせ)られけるを田村丸(たむらまる)片手(かたて)討(うち)
に噹(はつた)と斬(きる)。何(なに)かは以(もつ)て堪(たまる)べき。さしも兇勇(けうゆう)の大熊丸も。甲(よろひ)ながら肩尖(かたさき)より切下(きりさげ)られ
苦(あつ)とも言(いは)ず二叚(ふたつ)に成(なつ)て死(し)してんげる。賊卒(ぞくそつ)們(ばら)頼(たの)み切(きつ)たる巨魁(たいせう)を討(うた)れ其(その)猛勇(もうゆう)
に辟易(へきえき)して。蜘(くも)の子(こ)を散(ちらす)がごとく八方へ敗走(はいそう)す高丸(たかまる)悪路王(あくろわう)も幻術(げんじゆつ)は破(やぶ)られつ
多勢(たせい)の宦軍(くわんぐん)に揉立(もみたて)られ。戦(たゝか)ひ已(すで)に難義(なんぎ)に及(および)し上(うへ)。大 熊(ぐま)丸さへ討(うた)れしと聞(きい)て力(ちから)
を落(おと)し。今は是(これ)までと馬(むま)引返(ひつかへ)して逃走(にげはしり)けるゆへ。増(まし)て賊兵(ぞくへい)は隊(そなへ)を乱(みだ)して弊(ついへ)走(はしり)
けるを。宦軍(くわんぐん)勝(かつ)に乗(のつ)て追討(おひうち)し思(おも)ひ〳〵に敵(てき)を討(うちとり)分取(ぶんとり)高名(かうめう)を顕(あらは)しける。田村(たむら)
丸 味方(みかた)を制(せい)し。不知(ふち)案内(あない)の敵地(てきち)を長追(ながおひ)は無用(むよう)なりと退鉦(ひきがね)を鳴(なら)して勢(せい)を班(まとめ)
けるにぞ。弟麻呂(おとまろ)以下(いげ)の三 将(しやう)も手勢(てぜい)を集(あつ)め。総軍(そうぐん)一 同(ど)に勝喊(かちどき)を発(つく)り一勢(いつせい)々(〳〵)隊(そなへ)
を立(たて)て凱陣(かいぢん)しける。誠(まこと)に田村丸(たむらまる)の援兵(すくひ)無(なく)んば大 敗軍(はいぐん)に及(およぶ)べかりしに思(おもひ)の外(ほか)なる