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気(き)を屈(くつ)するは大丈夫(たいじやうぶ)の所業(しよぎやう)にあらず。今 味方(みかた)三千の軍兵(ぐんびやう)あり暫(しばら)く此(この)船陣(ふなぢん)を守(まも)
りて鋭気(ゑいき)を養(や[し]な)ふ内(うち)には。散乱(さんらん)せし兵卒(へいそつ)も追々(おひ〳〵)に馳(はせ)帰(かへ)るべし。其間(そのあひだ)には京軍(きやうぐん)長陣(てうぢん)
に退屈(たいくつ)し勇気(ゆうき)の抜(ぬけ)るを待(まち)。一 戦(せん)を催(もよほ)し。我また妙術(めうじゆつ)施(ほどこ)して敵(てき)を拉(とりひし)ぐなら
ば。田村丸(たむらまる)を虜(とりこ)にせん事 難(かた)からずといふにぞ。大墓王(おほはかわう)盤具王(ばんぐわう)等もとも〴〵に諫(いさめ)
ける。是(これ)に依(よつ)て高丸(たかまる)も其詞(そのことば)に従(したが)ひ退去(たいきよ)を止(とゞ)まり。船陣(ふなぢん)を守(まも)り離散(りさん)せし
士卒(しそつ)を招(まね)き集(あつ)めけるに。神楽岡(かぐらおか)の敗軍(はいぐん)に逃(にげ)散(ちり)し夷賊(いぞく)追々(おひ〳〵)に皈聚(かへりあつま)り又四
千 余騎(よき)にぞ成(なり)たりける。田村丸(たむらまる)俊哲(しゆんてつ)真鷲(まわし)の三 将(せう)は賊軍(ぞくぐん)に勢(いきほ)ひの付(つか)ざる内(うち)
に伐(うち)平(たいら)げんと。川辺(かはべ)まで押出(おしいだ)して屯(たむろ)を張(はり)川面(かはづら)を見わたせば。川の広(ひろ)き事一 里(り)
に余(あま)り水勢(すいせい)岩石(がんぜき)を流(なが)す許(ばかり)に疾(はや)く。川の上下(かみしも)には小船(こぶね)一 艘(そう)もなく。賊徒(ぞくと)は大船(たいせん)
八九 艘(そう)にとり乗(のつ)て東岸(ひがしのきし)に屯(たむろ)したり。田村丸(たむらまる)水煉(すいれん)の者に命(めい)じて川の瀬(せ)ぶみせし
むるに。深(ふか)き事 底(そこ)をしらず。しかも水勢(せいせい)【ママ】矢(や)を射(い)る如(ごと)くなれば。船(ふね)筏(いかだ)にて渡(わた)る