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とも櫓(ろ)櫂(かい)水棹(みざを)の立(たゝ)んやうもなく候と申にぞ。急(きう)に征伐(せいばつ)せんやうもなく軍議(ぐんぎ)区々(まち〳〵)にし
て日を送(おく)るうち。弟麻呂(おとまろ)も金瘡(きんそう)平愈(へいゆ)し。来(きた)り加(くは)はりて敵(てき)を征伐(せめうつ)の商議(しやうぎ)をなし
けるところに。賊軍(ぞくぐん)は軍勢(ぐんぜい)皈(かへ)り増(まし)て五千 余騎(よき)になりければ。さらば敵(てき)を一当(ひとあて)〱(あて)て
先敗(せんはい)の恥辱(ちじよく)【耻は俗字】を雪(すゝが)んと十月十日に五六 艘(そう)の艨艟(いくさぶね)を乗出(のりいだ)し宦軍(くわんぐん)の陣(ぢん)へ打向(うちむか)ひ
ける。宦軍(くわんぐん)の諸大将(しよだいせう)是(これ)を見て。船(ふね)と陸(くが)との合戦(かせん)は利(り)あらじ敵(てき)を陸(くが)へ鉤上(つりあげ)【鈎は俗字】て伐(うた)
んと二 里(り)計(ばかり)退(しりぞい)て屯(たむろ)しければ。案(あん)のごとく賊兵(ぞくへい)四千五百 余騎(よき)陸(くが)へかけ上りて隊(そなへ)を
立(たて)喊(とき)を発(つく)り鉦(どら)鼓(つゞみ)【皷は俗字】を鳴(なら)して宦軍(くわんぐん)の陣(ぢん)へかけ向(むか)ひ矢(や)を射(い)かけて攻(せめ)進(すゝ)む。宦軍(くわんぐん)
は待(まち)設(もうけ)たる事なれば。同(おな)じく喊(とき)を合(あは)し矢(や)を射(い)かへし。逸雄(はやりを)の若者(わかもの)どもは早(はや)抜(ぬき)
つれて打(うつ)てかゝり。敵(てき)味方(みかた)わたり合(あひ)て追(おつ)つ返(かへ)しつ火花(ひばな)を散(ちら)して戦(たゝか)ひける。悪路(あくろ)
王(わう)は戦(たゝか)ひの汐合(しほあひ)を見て馬上(ばせう)に咒文(じゆもん)を唱(とな)へ幻術(げんじゆつ)を行(おこな)ふとひとしく。今まで晴(はれ)し
天(そら)俄(にはか)にかき曇(くも)り冥々(めい〳〵)と暗(くら)くなり。悪風(あくふう)吹起(ふきおこ)りて土砂(どしや)を捲上(まきあげ)且(かつ)朦々(もう〳〵)と霧(きり)