← 前のページ
ページ 149 / 521
次のページ →
翻刻
降起(ふりおこつ)て物(もの)の黒白(あいろ)も見え分(わか)たず成(なり)ければ。宦軍(くわんぐん)大いに駭(おどろ)き須波(すは)また例(れい)の幻術(げんじゆつ)よと
騒(さは)ぎ惑(まど)ひ隊(そなへ)を乱(みだ)して騒立(さはぎたつ)賊兵(ぞくへい)得(え)たりと総軍(そうぐん)一 度(ど)に打進(うちすゝ)み無(む)二 無(む)三に切捲(きりまく)
るにぞ。宦軍(くわんぐん)倍(ます〳〵)周障(しうせう)【陣は誤記】して討(うた)るゝ者 数(かづ)をしらず。田村丸(たむらまる)は兼(かね)てかゝる事も有(あら)んかと
獣類(じふるい)の血(ち)を多(おほ)くとりて用意(ようい)しければ。此時(このとき)士卒(しそつ)に命(めい)じて空中(くうちう)へ蒔(まき)散(ちら)させけるに
例(れい)の如(ごと)く風(かぜ)止(やみ)霧(きり)霽(はれ)けれども賊軍(ぞくぐん)は倍(ます〳〵)勢(いきほ)ひ猛(たけ)く打立(うちたて)けるにぞ。崩立(くづれたち)たる京軍(きやうぐん)
足並(あしなみ)を立(たて)整(なを)しかね支度路(しどろ)に成(なつ)て見えけるに。何国(いづく)より来(き)しともしらず。一人の沙(しや)
門(もん)と烏帽子(ゑぼし)浄衣(じやうえ)を着(き)たる社人(しやにん)忽然(こつぜん)と顕(あらは)れ出(いで)追来(おひく)る賊軍(ぞくぐん)に向(むか)ひ袖(そで)を以(もつ)
て打払(うちはら)ひければ忽(たちま)ち大風(おほかぜ)吹出(ふきいだ)し賊軍(ぞくぐん)を吹倒(ふきたを)す事 将棋(しやうぎ)の駒(こま)を倒(たを)すが如(ごと)し是(これ)
に依(よつ)て田村丸(たむらまる)真鷲(まわし)俊哲(しゆんてつ)弟麻呂(おとまろ)。銘々(めい〳〵)味方(みかた)を励(はげま)し須波(すは)賊徒(ぞくと)は引色(ひきいろ)に成(なり)たる
ぞ返(かへ)せ〳〵と下知(げぢ)をなす。此(この)号令(がうれい)に機(き)を整(なを)し。宦軍(くわんぐん)一 同(ど)に盛返(もりかへ)して切進(きりすゝ)めば。又
賊兵(ぞくへい)捲(まく)り立(たてら)れて足場(あしば)を敗退(にげしりぞ)きける悪路王(あくろわう)大いに怒(いか)り再(ふたゝ)び咒文(じゆもん)を唱(とな)へて邪(じや)