← 前のページ
ページ 166 / 521
次のページ →
翻刻
なき議(ぎ)に国(くに)の財(たから)を費(ついや)さんより。鰥寡(くわんくわ)孤独(ことく)の窮民(きうみん)に米銭(べいせん)を与(あた)へ施(ほどこ)すべしと
勅詔(ちよくぜう)在(あり)ければ。大臣(だいじん)達(たち)大いに感伏(かんふく)し奉り。其(その)勅詔(みことのり)のおもむきを諸司(しよし)百宦(ひやくくわん)へ云渡(いひわた)
し普(あまね)く鰥寡(くわんくわ)孤独(こどく)の者(もの)に米銭(こめぜに)を施(ほどこ)されける。其(その)御仁徳(ごじんとく)による所(ところ)にや日(ひ)を追(おふ)
て御悩(ごのふ)平愈(へいゆ)ならせ給ひければ上下 皆(みな)万歳(ばんぜい)を唱(となへ)てぞ悦(よろこ)びける。其(その)翌年(よくねん)延暦(えんりやく)二
十五年 丙戌(ひのへいぬ)の春(はる)帝(みかど)七 旬(じゆん)にならせ給ふに御 老年(らうねん)ゆへにやさして御悩(このふ)と申ほど
の御事もなく。只(たゞ)仮初(かりそめ)に打臥(うちふし)給ひしに。三月十七日 遂(つひ)に崩御(ほうぎよ)なし給ひけり。親(しん)
王(わう)女御(にようご)諸(しよ)臣下(しんか)はいへば更(さら)なり。此君(このきみ)の化沢(くわたく)を蒙(かふむ)りし天(あめ)が下(した)の万民(ばんみん)皆(みな)赤子(せきし)の父(ふ)
母(ぼ)を亡(うしな)ひたることく涕泣(ていきう)せざるはなかりけり。斯(かく)て尊骸(そんがい)を玉棺(ぎよくくわん)に収(おさ)め山城国(やましろのくに)紀伊郡(きいこほり)
柏原(かしはばら)の山陵(みさゝき)に葬(ほふむ)り奉られける。御在位(こざいゐ)二十五年 宝算(ほうさん)七十 歳(さい)とぞ聞(きこ)えさせ
給ひけり。皇子方(わうじがた)百宦(ひやくくわん)百司(ひやくし)末々(すへ〴〵)の輩(ともがら)まで諒闇(りようあん)に篭(こも)り。御忌(おんいみ)明(あき)て。后(のち)諸卿(しよけう)詮(せん)
議(ぎ)ありて皇太子(くわうたいし)安殿(やすどの)親王(しんわう)を帝位(ていゐ)に即(つけ)奉られけり。平城天皇(へいぜいてんわう)と申は此君(このきみ)なり