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質(しつ)佞奸(ねいかん)【侫は譌字】にて己(おのれ)に劣(おと)れるは侮(あなど)り。己(おのれ)に勝(まさ)れるは妬(ねた)み。奸智(かんち)逞(たくま)しければ。言(ことば)を巧(たくみ)にし色(いろ)を
令(よく)して帝(みかど)に媚(こび)。御 寵愛(てうあい)に誇(ほこり)て万事(ばんじ)を口入(くにふ)し。仙洞(せんとう)の御 政事(せいじ)は大小となく薬子(くすりこ)が心
任(まか)せになりて非義(ひぎ)の事のみ多(おほ)けれども。君(きみ)の御(ぎよ)意に叶(かなひ)し女なれば。否難(ひなん)をいふ人もな
く。却(かへつ)て院参(いんざん)の公卿(くげう)は皆(みな)薬子(くすりこ)に賄賂(まいなひ)を贈(おく)り其(その)心に合(かな)はん事を欲(ほつ)しけるゆへ。薬子(くすりこ)の
威勢(いせい)追々(おひ〳〵)盛(さかん)になり。さながら中宮(ちうぐう)女御(にようご)の如(ごと)し。加之(しかのみ)ならず薬子(くすりこ)が兄(あに)の仲成(なかなり)もまた邪智(じやち)
奸曲(かんきよく)の佞人(ねじけびと)【侫は譌字】にて。妹(いもと)の権威(けんい)を借(かつ)て身(み)を驕(たかぶ)り。諸人(しよにん)を土芥(ちりあくた)の如(ごと)く直下(みくだ)し。己(おのれ)に阿(おもね)る者は
君前(くんぜん)を善(よき)やうに申なし。己(おのれ)に諛(へつら)はざるは君(きみ)に讒(ざん)して宦位(くわんゐ)を損(おと)し偏(ひとへ)に唐(とう)の揚国忠(やうこくちう)が所(しよ)
行(ぎやう)に異(こと)ならず。されども太上皇(だじやうかう)是(これ)を咎(とが)め玉はず。忠臣(ちうしん)なりとのみ思召(おぼし)けるぞ薄情(うたて)
かりける。仲成(なかなり)曽(かつ)て民部大夫(みんぶのたいふ)江人(えひと)といふ人の女(むすめ)を娶(めとり)て妻室(さいしつ)としけるに。其(その)妻(さい)の姨(おば)に
狭衣(さごろも)とて容顔(ようがん)麗(うるはし)き女ありて。或(ある)公卿(くげう)に嫁(とつぎ)て在(あり)けるを。仲成(なかなり)一 度(ど)狭衣(さごろも)を見(み)て懸想(けさう)し
夫(をつと)ある女とも憚(はばか)らず。数通(すつう)の艶書(ゑんじよ)を贈(おく)り。又は対面(たいめん)する折(をり)は打(うち)つけにかき口説(くどき)けれ