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し給ひけれども。帝(みかど)は最愛(さいあい)の薬子(くすりこ)なれば御 許容(きよよう)し給はざりけり。薬子(くすりこ)は此事(このこと)を
知(しり)て春宮(とうぐう)を深(ふか)く恨(うら)み。折(をり)もあらば君(きみ)に讒奏(ざんそう)して春宮(とうぐう)を追退(おひしりぞけ)んものと巧(たく)みけるに
却(かへつ)て帝(みかど)宝位(みくらゐ)を下(すべ)らせ給ひ。春宮(とうぐう)帝位(ていゐ)に即(つき)給ひしかば。案(あん)に相違(さうゐ)し。平城(なら)の新(しん)
宮(きう)へ移(うつ)りて後(のち)は。兄(あに)仲成(なかなり)と心を合(あは)し。太上皇(だじやうかう)と帝(みかど)の御中を不和(ふわ)にし。遂(つひ)には太上皇(だじやうかう)
に重祚(ちようそ)を勧(すゝめ)奉(たてまつ)り嵯峨(さが)天皇の御位(みくらゐ)を奪(うばは)んと。恐(おそれ)多(おほ)き大望(たいもう)を企(くはだて)専(もつは)ら君(きみ)に媚(こび)て
其御心(みこゝろ)を蕩(とかう)し。此所(こゝ)には池(いけ)を堀(ほら)せ給へ。彼所(かしこ)には台(うてな)を建(たて)給へと勧(すゝ)め申。四季(しき)折々(をり〳〵)
に婬楽(いんらく)憍奢(けうしや)の御遊(ぎよゆふ)をなさせ奉りけるゆへ。財宝(ざいほう)の費(ついへ)夥(おびたゝ)しく。偏(ひとへ)に殷(いん)の紂王(ちうわう)
周(しう)の幽王(ゆうわう)の奢(おごり)に比(ひと)しく。京都(きやうと)よりの御 賄金(まかなひきん)も数百万両(すひやくまんれう)に及(およ)び大いに都(みやこ)の御 手支(てづかへ)と
なり。後(のち)には平城(なら)より言遣(いひつか)はさる金銀(きん〴〵)も滞(とゞこふ)りがちにぞなりける。是(これ)に依(よつ)て薬子(くすりこ)又
帝(みかど)の御事を上皇(じやうかう)へ讒(ざん)しけるは。今の帝(みかど)いまだ春宮(とうぐう)にておはしける時(とき)。妾(わらは)に懸想(けさう)し玉
ひ度々(たび〳〵)文(ふみ)を賜(たま)はり又は人伝(ひとづて)に口説(くどき)給ひしかども妾は君(きみ)の御恩(ごおん)を蒙(かうむ)れば。争(いかで)か春(とう)