Gallicaの日本資料を翻刻!

コレクション: コレクション1

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ページ: 192

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耳(みゝ)に口を寄(よせ)て数声(すせい)呼(よび)活(いけ)けるにぞ。いまだ入水(じゆすい)して幾程(いくほど)も間(あいだ)なければ。頓(やが)て息(いき)吹(ふき)かへし 蘇(よみがへ)りける。漁夫(れうし)は舟(ふね)を小者(こもの)に漕(こが)せ。其身(そのみ)は用意(ようい)の薬(くすり)を採出(とりいだ)して玄吾(げんご)に服(ふく)さしめ 湯(ゆ)を【別本による】与(あた)へて介抱(かいほう)し。さるにても如何(いか)なる事にて捨身(みなげ)せられしやと問(とふ)に。玄吾 涙(なみだ)ながら 国(くに)を出(いで)て都(みやこ)へ上(のぼら)んとし。盗賊(とうぞく)に遭(あふ)て衣服(いふく)金子(きんす)を奪(うば)はれ為方(せんかた)なさに投身(みなげ)せしまで一五(いちぶ) 一十(しゞふ)を語(かたり)ければ漁夫(れうし)は其(その)薄命(ふしあはせ)を哀(あはれ)み。偖々(さて〳〵)それは懊悩(きのどく)なる事かな。此比(このごろ)此辺(このへん)の山下(さんか)に 盗賊(とうぞく)隠(かくれ)栖(すん)で毎夜(まいよ)旅人(たびびと)を剥取(はぎとる)との噂(うはさ)にて黄昏(たそがれ)よりは往来(ゆきゝ)する人もなし。和殿(わどの)は 遠国(おんごく)より来(きた)り。さる事もしらず通(とふ)られしゆへ盗賊(とうぞく)に剥(はが)れしならめ。左(さ)有(あれ)ばとて財(たから)は 世(よ)の廻(まは)り物(もの)なり。身(み)を投(なげ)て死(しす)る事や宥(ある)べき先(まづ)我家(わがや)へ来(きた)り。気(き)を鎮(しづめ)て保養(ほやう)せられ よ。左(と)も右(かく)もして京(きやう)へ奉公(はうこう)せらるゝやうに計(はか)らひ進(まいら)すべしと。世(よ)に頼母(たのも)しく言(いひ)けるゆへ。玄(げん) 吾(ご)は地獄(ぢごく)にて菩薩(ぼさつ)に遇(あひ)し如(ごと)く大いに悦(よろこ)び。其(その)深情(しんせう)をくれ〴〵礼謝(れいしや)しける。漁夫(れうし)は玄(げん) 吾(ご)に苫(とま)を身(み)に纏(まと)はせ火(ひ)にあたらせなどするうち。船(ふね)は堅田村(かたゝむら)なる漁夫(ぎよふ)の家(いへ)の裏(うら)へぞ