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彼者(かのもの)にわたして身(み)の在着(ありつき)を求(もと)めらるべしと。残(のこ)るところなく言(いひ)教(をしへ)ければ。玄吾(げんご)は
数度(あまたゝび)推(おし)いたゞき誠(まこと)に御 身(み)なかりせば底(そこ)の水屑(みくづと)なるべきに不測(ふしぎ)に一 命(めい)を助(たすけ)たまはり
再生(さいせい)の大 恩(おん)のみならず。前夜(よべ)よりの御 介抱(かいほう)といひ衣服(いふく)路銀(ろぎん)まで借(かし)給(たま)はる御 厚志(かうし)
礼謝(れいしや)は詞(ことば)に尽(つ[く])し難(がた)し。御 深情(しんじやう)に依(よつ)て身(み)の在着(ありつき)定(さだ)まり候はゞ。早速(さつそく)御 礼(れい)申上候べし
と厚(あつ)く恩(おん)を謝(しや)し礼(れい)を演(のべ)遂(つひ)に辞(いとま)を告(つげ)て立出(たちいで)堅田村(かたゝむら)を後(あと)に見て。京都(きやうと)を志(さし)
て上(のぼ)り。往々(ゆき〳〵)て北白河(きたしらかは)へいたり。兵太(ひやうだ)が知音(ちいん)の者を尋(たづぬ)るに。左右(さう)なく相(あひ)知(しれ)けるゆへ門(あ)
呼(ない)を乞(こふ)て対面(たいめん)し。兵太が文書(てがみ)を出(いだ)し身上(みのうへ)の義(ぎ)を頼(たの)みければ。此男(このをとこ)も貧人(ひんじん)とは
見えながら律気(りちぎ)なる男(をとこ)にて文書(てがみ)を読(よん)で快(こゝろよ)く肯(うけが)ひ。和殿(わどの)は書(もの)をかゝるゝやと問
により。玄吾(げんご)答(こたへ)て。手跡(しゆせき)は幼少(ようせう)の時(とき)より好(この)み。拙(つたな)けれども少々(すこし)は書(かき)候といふにぞ。其(それ)は幸(さいわひ)の
事なり。近村(きんそん)に楞厳院(れうごんいん)といへる大梵刹(おほてら)あり。其(その)寺中(じちう)に物書(ものかく)家僕(けらい)の欲(ほし)きよし。我(わが)知(しる)
音(べ)の者 頼(たの)まれ。我(われ)へも其(その)話(はなし)ありき。和殿(わどの)は人品(ひとがら)も卑(いやし)からざれば。彼(かの)寺(てら)へ奉公(はうこう)せられんは