Gallicaの日本資料を翻刻!

コレクション: コレクション1

- 翻刻

 - ページ 201

ページ: 201

翻刻

果(はた)して一亭(いつてい)有(あり)けるにぞ。何心(なにごゝろ)なく立入(たちいり)梯(はしご)を登(のぼ)り見るに。豈(あに)はからん為空(ゐくう)はあらで容(みめ) 貌(かたち)美麗(うるはしき)女二人さし向(むか)ひて双六(すごろく)を打(うち)居(ゐ)けるが。玄吾(げんご)を顧(かへりみ)て二 女(ぢよ)とも大いに駭(おどろ)きし 面色(めんしよく)にて。御身(おんみ)は何人(なにびと)なれば此(この)楼(にかい)は来(きた)り給ひしやと咎(とがめ)ければ。玄吾(げんご)答(こたへ)て。我(われ)は普賢菴(ふげんあん) に勤仕(きんし)する者にて候が。為空(ゐくう)和尚(おせう)に内用(ないよう)ありて参(まい)り候ところ。厨所(だいどころ)には見え玉はず。もし 後園(つぼのうち)にや御坐(おはす)らんと庭前中(ていぜんぢう)を尋(たづ)ね候ひしに。此所(このところ)に双六(すごろく)の筒音(つゝおと)の聞え候ゆへ。偖(さて)は此(この) 楼(たかどの)に客人(きやくじん)などゝ楽(たのし)み給ふにこそと推量(すいりやう)し。何心(なにごゝろ)なく立入(たちいり)候なり無礼(ぶれい)の罪(つみ)は恕(ゆる)し給へと 謝(わび)けるに。一人の女 声(こゑ)を低(ひそ)めて曰(いはく)御 身(み)はいまだ此(この)楼(にかい)の巨細(わけ)を知(しり)玉はぬならめ。此所(こゝ)は寺(じ) 中(ちう)の僧(そう)の隠(かく)れ遊(あそ)ぶ所(ところ)にて。もし他(た)の人過(あやまつ)て此楼(このにかい)へ登(のぼ)るを寺僧(じそう)見付(みつけ)なば。有無(うむ)を 言(いは)せず逼(せま)り殺(ころ)す怖(おそ)ろしき所(ところ)なり。疾々(はや〳〵)帰(かへ)り給へと色(いろ)を変(かへ)ていふにぞ。玄吾(げんご)心 訝(いぶか)り 偖(さて)は御 身(み)達(たち)は住僧(ぢうそう)の梵妻(かくしづま)にておはすにや。さもあれ此楼(このろう)へ他(た)の人の登(のぼる)を見る時(とき)は 逼(せま)り殺(ころ)すとのたまふは心得(こゝろえ)がたし。我(われ)は寺中(じちう)に勤仕(はうこう)する者なればさる事も候まじ。先(まづ)