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に応(おふ)ずるが如(こと)くなれば憲宗帝(けんそうてい)其(その)剛記(かうき)能弁(のふべん)を大いに感賞(かんせう)ありて重(おも)く饗応(きやうおふ)
し絹帛(けんはく)珠玉(しゆぎよく)を賜(たま)ひ。宮中(きうちう)に留(とゞ)めて種々(さま〴〵)管侍(もてな)し給ひけるが。宮中(きうちう)に三間(みま)の張壁(はりかべ)
ありて晋(しん)の右将軍(うしやうぐん)王羲之(わうぎし)の手跡(しゆせき)をとゞめけるに。年(とし)経(へ)て破壊(はゑ)せしかば。今(この)
般(たび)二間(ふたま)を修理(しゆり)させられ。いまだ筆(ふで)を下(くだ)すべき程(ほど)の能書(のふじよ)を得(え)られず其儘(そのまま)にて有(あり)
ければ。憲宗帝(けんそうてい)くう空海和尚(くうかいおしやう)に対(むか)ひ。師(し)は能書(のふじよ)の聞(きこ)え高(たか)し。此壁(このかべ)に一筆(いつひつ)を渾(ふるひ)候へと
仰(あふせ)けるに。師(し)すこしも辞(じ)する色(いろ)なく左右(さいう)の手足(てあし)に筆(ふで)を執(とり)また口(くち)に筆(ふで)を含(ふく)み五(いつ)
所(ところ)に五 行(ぎやう)の書(しよ)を同時(どうじ)に書(かゝ)れける。其(その)筆勢(ひつせい)墨色(ぼくしよく)殊絶(しゆぜつ)にて龍牙(りうげ)虎爪(こそう)ともいふ
べく古(いにしへ)の王羲之(わうぎし)王献之(わうけんし)といへども猶(なを)及(およ)ばざる計(ばかり)なり。今 一間(ひとま)には墨(すみ)を盥(たらひ)に入(いれ)壁(かべ)
に向(むか)ふてそゝぎかけられけるに。自然(しぜん)と樹(じゆ)の字(じ)になり上下 左右(さいう)の位置(ゐち)正(たゞ)しかり
ければ。帝(みかど)も諸臣下(しよしんか)も是(これ)を見る人 驚嘆(きやうたん)せざるはなかりけり。帝(みかど)睿感(ゑいかん)のあまり
勅(ちよく)して五筆和尚(ごひつおしやう)といふ号(がう)をぞ下されける。誠(まこと)に前代(ぜんだい)例(ためし)を聞(きか)ず後代(こうだい)又 有(ある)まじき