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能書(のふじよ)にて敢(あへ)て凡庸(ぼんよう)の及(およ)ばざる所(ところ)なり。唐帝(とうてい)は空海和尚(くうかいおしやう)を深(ふか)く尊信(そんしん)ありて。願(ねがは)
くは師(し)永(なが)く朕(ちん)が国(くに)に留(とゞま)り候へ。朕(ちん)が師(し)と仰(あふ)ぎ大寺(たいじ)を建立(こんりう)して住(ぢう)せしむべしと宣(のたま)ひ
けれども。空海和尚(くうかいおしやう)承伏(せうふく)の色(いろ)なく。君命(くんめい)誠(まこと)に忝(かたしけ)なく候へども。拙僧(せつそう)身(み)を忘(わす)れ命(いのち)を
拋(なげう)つて遠(とふ)く蒼溟(そうめい)を渡(わた)り貴国(きこく)に来(きた)り候は。仏道(ぶつどう)を倭国(わこく)に弘(ひろ)め普(あまねく)衆生(しゆぜう)を
化度(けど)せんためにて候へば。恐(おそれ)ながら王命(わうめい)に応(おふ)じ奉り難(がた)しと辞(じ)し申されけるにぞ。唐(とう)
帝(てい)も抑留(よくりう)し玉ふ事 能(あた)はず。さらば現世(このよ)の契(ちぎり)は薄(うす)くとも。来世(らいせ)は師(し)の教化(きやうけ)を永(ながく)
受(うく)べき証(しるし)にとて宝庫(ほうこ)に秘置(ひめおか)れたる菩提子(ぼだいし)の珠数(じゆず)を給(たま)はり其余(そのほか)等々(かづ〳〵)の
宝器(ほうき)を下(くだ)されければ。和尚(おしやう)大いに怡(よろこ)び謹(つゝし)んで頂戴(てうだい)ありけり。右の念珠(ねんじゆ)は今 猶(なを)東(とう)
寺(じ)の宝蔵(ほうざう)に納(おさまり)有(あり)とかや其後(そのゝち)空海和尚(くうかいおしやう)城中(じやうちう)の東西南北(こゝかしこ)を巡(めぐ)りて遊覧(ゆふらん)有(あり)ける
所(ところ)に一流(ひとながれ)の㵎河(たにがは)ありければ。少時(しばらく)停立(たゝずみ)水相(すいさう)を観(くわん)じて在(おはし)けるに。忽(たちま)ち一人の童子(どうじ)
飄然(へうぜん)として出来(いできた)れり。空海和尚(くうかいおしやう)つら〳〵童子(どうじ)の体(てい)を見らるゝに。蓬(よもぎ)の髪(かみ)は乱(みだれ)て