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翻刻
羅刹(らせつ)来り権者(ごんじや)の筆跡を訕(そしり)し罪人(ざいにん)を罰(ばつ)せよとて百枝(もゝえ)を鉄(くろがね)の索(なわ)にて強(つよ)く
縛(しば)り笞(しもと)を揚(あげ)て散々(さん〴〵)に撃(うち)けるにぞ。百枝(もゝえ)苦痛(くつう)に堪(たへ)かね罪(つみ)を懺悔(さんげ)し。免(ゆる)し給へ
と泣謝(なきわび)ければ。鬼(おに)どもよふ〳〵笞(しもと)を止(とゞ)め索(なわ)を解(とき)赦(ゆる)して何国(いづく)ともなく立去よと思(おもへ)ば
忽(たちま)ち夢(ゆめ)は覚(さめ)けるが。其(それ)より後(のち)は五体(ごたい)痺(しびれ)て生涯(しやうがい)癈人(はいじん)と成けるとぞ。又 小野道風(おのゝとうふう)
は空海和尚(くうかいおしやう)の書(かき)給ひし朱雀(しゆじやく)門の額(がく)ならびに大極殿(たいきよくでん)の額(がく)の文字を見て。朱雀(しゆじやく)
門にはあらで米雀(べいじやく)門大 極殿(きよくてん)かと見れば火極殿(くわきよくでん)なりと誹(そし)り笑(わら)はれければ。忽(たちま)ちに左
右(いう)の腕(うで)痿(なえ)痺(しび)れ。それより筆を執(とつ)て書(しよ)をかくに自在(じざい)ならず成(なり)けり。然(され)ども絶世(ぜつせい)の能(のふ)
書(じよ)なれば慄(ふる)ひながら書(かゝ)れける手跡(しゆせき)以前(いぜん)よりは却(かへつ)て筆勢(ひつせい)奇絶(きぜつ)に見えけるゆへ。世(よ)
の人 道風(とうふう)の慄筆(ふるひふで)と賞美(せうび)せしとかや。彼(かの)世尊寺(せそんじ)藤原行成(ふぢはらのかうぜい)卿(けう)は。空海和尚(くうかいおしやう)の手(しゆ)
跡(せき)を深(ふか)く尊敬(そんけう)して其(その)書風(しよふう)を学(まな)び遂(つひ)に日本三 跡(せき)の一人と異国(いこく)までも筆の名
誉(よ)を伝(つた)へ。また菅原道真(すがはらのみちざね)公(こう)も空海和尚(くうかいおせう)の筆法(ひつほふ)を慕(した)ひ学(まな)び給ひて。是(これ)また能(のふ)