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書(じよ)の誉(ほまれ)を世(よ)に高(たか)うし給ひけり是(こ)は且(しばらく)おきて空海和尚(くうかいおせう)は高雄寺(たかをでら)の幽静(ゆうせい)なるを愛(あい)
し給ひ。内裡(だいり)に法務(ほふむ)あるの余日(よじつ)は高雄寺(たかをでら)にのみ住(ぢう)し給ひけるが。元来(ぐわんらい)高雄寺(たかをでら)は和気(わけの)
朝臣(あつそん)清麻呂(きよまろ)宇佐八幡宮(うさはちまんぐう)の神勅(しんちよく)を蒙(かふむ)りて建立(こんりう)する所(ところ)の道場(どうぢやう)にて神願寺(しんぐわんじ)と
号(がう)せしを後(のち)に神護寺(しんごじ)と改(あらた)められける。然(しかる)に空海和尚(くうかいおせう)帰朝(きてう)在(あり)て後(のち)和気清麻呂(わけのきよまろ)
の息男(そくなん)真綱大夫(まづなのたいぶ)空海和尚(くうかいおせう)を深(ふか)く信仰(しんかう)し。高雄寺(たかをでら)の住侶(ぢうりよ)とせまほしく思(おも)ひ其(その)
由(よし)を朝廷(てうてい)へ願(ねが)ひければ。即(すなは)ち勅許(ちよくきよ)ありて。偖(さて)こそ高雄(たかを)神護寺(しんごし)を空海和尚(くうかいおせう)に給(たま)はり
しなり。然(しかる)に寺門(じもん)の額(がく)いまだ旧(もと)の額(がく)を改(あらた)めざれば。真綱(まづな)新(あらた)に額(がく)を造(つくり)高雄寺(たかをでら)へ寄(き)
付(ふ)せんと朝廷(てうてい)へ其旨(そのむね)を奏達(そうたつ)し。額面(がくめん)の書(しよ)は空海和尚(くうかいおせう)の染筆(ぜんひつ)を願(ねがは)んと新額(しんがく)を従(じふ)
者(しや)に齎(もたら)し高雄寺(たかをでら)へ赴(おもむ)きけるに。折(をり)しも大雨(たいう)の後(のち)にて清滝川(きよたきがは)の水(みづ)漲(みなぎ)り溢(あぶ)れ渓川(たにがは)の橋(はし)
流(なが)れ落(おち)渡(わた)るべき便(たより)なく。如何(いかゞは)せんと猶予(ためらひ)けるに。空海和尚(くうかいおせう)は高雄寺(たかをてら)に
在(いまし)て暗(あん)に
真綱(まつな)が額面(がくめん)の書(しよ)を望(のぞ)む意(い)を知覚(ちかく)し給ひ弟子僧(でしそう)に筆(ふで)硯(すヾり)を持(もた)せて坂(さか)の半途(はんと)迄(まで)