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給ひて守敏(しゆびん)と御 物語(ものがたり)なし給ふに大なる火鉢(ひばち)に炭(すみ)を山のごとく積(つみ)たるを数多(あまた)並(ならべ)
おきたれば。火気(くわき)熾(さか)んにて恰(あたか)も五六月の暑気(しよき)のごとく。帝(みかど)御 額(ひたへ)に汗(あせ)を流(なが)し給ひ
守敏(しゆびん)に向(むか)はせ給ひて。此(この)火気(くわき)をも鎮(しづめ)る法(ほふ)やあると勅問(ちよくもん)ありけるに。僧都(そうづ)答(こたへ)て。いと
易(やす)き御 事(こと)にて候。即時(そくじ)に火気(くわき)を鎮(しづめ)候はんとて。例(れい)のごとく袖中(そでのうち)にて又 水印(すいいん)を結(むすび)けれ
ば。今まで烈々(れつ〳〵)と燃(おこり)立(たち)し紅炭(かうたん)皆(みな)消然(せうぜん)として一 同(ど)に冷炭(れいたん)となり忽(たちま)ち火気(くわき)散(さん)
じて旧(もと)の寒冷(かんれい)とぞなりにける。帝(みかど)甚(はな)はだ睿感(ゑいかん)在(ましま)し。守敏(しゆびん)の法力(ほふりき)を御 賞美(せうび)ありて
数々(かづ〳〵)の被物(かつけもの)を給(たま)はり弥(いよ〳〵)御 皈依(きえ)在(ましま)しけり。然(しかる)に其(その)翌日(よくじつ)空海和尚(くうかいおせう)参内(さんだい)ありて御(ぎよ)
簾(れん)間近(まぢか)く伺候(しかう)せられければ。帝(みかど)平日(つね)のごとく四方八方(よもやま)の御 物語(ものがたり)のはしに。守敏僧都(しゆびんそうづ)
が両度(りようど)法力(ほふりき)を顕(あらは)せし義(ぎ)を語(かたら)せ給ひけるに。空海和尚(くうかいおせう)微笑(びせう)し。仏道(ぶつどう)を修行(しゆぎやう)し候
者(もの)左程(さほど)の義(ぎ)は奇(き)とするに足(たり)候はず。只(たゞ)小児(せうに)の戯(たはむれ)にひとしき事に候。遮莫(さもあれ)空海(くうかい)御 殿(でん)
中(ちう)に侍(さふら)はゞ守敏(しゆびん)といへども其(その)法力(ほふりき)は施(ほどこ)され候まじと申されけるゆへ。帝(みかど)御心(みこゝろ)に疑(うたが)はせ給ひ