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空海(くうかい)が殿中(でんちう)に在(あれ)ばとて守敏(しゆびん)の法力(ほふりき)の行(おこな)はれざる事(こと)や有(ある)べき。此上(このうへ)は両僧(りようそう)が法力(ほふりき)
の勝劣(しやうれつ)を試(ため)し見んと思召(おぼしめし)空海(くうかい)に向(むか)ひ給ひ。然(さら)ば和僧(わそう)は彼所(かしこ)の簾内(れんない)に隠(かくれ)てうかゞ
ひ候へ。守敏(しゆびん)を召寄(めしよせ)て法力(ほふりき)を施(ほどこ)さしめんと詔(みことのり)ありて。即剋(そくこく)【尅は俗字】宦人(くわんにん)に命(めい)じ給ひ守敏僧(しゆびんそう)
都(づ)をぞ召(めさ)れける。是(これ)に依(よつ)て空海和尚(くうかいおせう)は側(かたへ)の御簾(みす)の内(うち)に身(み)を隠(かく)して守敏(しゆびん)の参内(さんだい)
あるを待(まち)給ふに。時(とき)計(ばかり)ありて守敏僧都(しゆびんそうづ)参内(さんだい)せられければ。帝(みかど)は詳(わざ)と是(これ)を知召(しろしめさ)ぬ御
風情(ふぜい)にて浄手(てうづ)の湯(ゆ)を持(もて)よと宣(のたま)ふに。兼(かね)て内勅(ないちよく)を奉(うけたま)はりし内侍典(ないしのすけ)角盥(つのだらひ)に湯玉(ゆだま)の
立(たつ)ばかりの熱湯(にえゆ)を汲湛(くみたゝへ)て捧(さゝ)げ出(いで)君(きみ)の御前(ごぜん)へさし上ければ。帝(みかど)御覧(ごらん)じ。是(こ)は殊(こと)の
外(ほか)湯(ゆ)の熱(あつ)きぞと宣(のたま)ひながら守敏(しゆびん)を御覧(みそなはし)給ひ。和僧(わそう)は何時(いつ)のほどに来(きた)りしや。幸(さひはひ)の
折(をり)からなり。此湯(このゆ)を冷(さま)し得(え)させよと勅(ちよく)し給ふ。僧都(そうづ)唯(はつ)と領掌(れうぜう)し袖(そで)の中(うち)に水印(みづのいん)を結(むすび)
けれども更(さら)に湯(ゆ)は冷(さめ)ざりけり。守敏(しゆびん)是(こ)は如何(いかに)とて。再(ふたゝ)び咒語(じゆご)を唱(とな)へ印(いん)を結(むすび)なをせども
尚(なを)少(すこ)しも冷(さめ)ざれば。帝(みかど)局(つぼね)を召(めし)て水(みづ)を入させ給ひて御 手(て)を浄(きよ)め給ひ。又 昨日(きのふ)のごとく火鉢(ひばち)