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虚空(こくう)に向(むかふ)とひとしく俄(にはか)に風(かぜ)颯(さつ)と吹(ふき)下(おろ)し密雲(あまぐも)山の端(は)より湧起(わきおこ)ると比(ひと)しく一 声(せい)の雷(らい)
鳴(めい)天外(てんぐわい)に轟(とゞろ)き見る〳〵黒雲(くろくも)一天に充満(じうまん)し風勢(ふうぜい)倍(ます〳〵)強(つよ)く雷電(らいでん)弥(いよ〳〵)厲(はげ)しくして暴雨(ばうう)
盆(ぼん)を傾(かたむく)るが如(ごと)く降出(ふりいだ)しけるにぞ。檀(だん)の周(めぐり)に扣(ひかへ)し僧俗(そうぞく)ども雀躍(こおどり)して悦(よろこ)ばざるはなし
此時(このとき)西寺(さいじ)には守敏(しゆびん)が秘封(ひふう)破(やぶ)れて瓶中(へいちう)の諸竜(しよりよう)虚空(こくう)に飛登(ひとう)しともに膏雨(かうう)を
降(ふら)しけるゆへ雨勢(うせい)以前(いぜん)に十 倍(ばい)し。洛中(らくちう)洛外(らくぐわい)の貴賎(きせん)老若(らうにやく)我(われ)を忘(わすれ)て踊(おどり)舞(まひ)怡(よろこ)びうたふ
声(こゑ)雨(あめ)の音(おと)に雑(まじ)りて揚(やう)〱(〳〵)たり。空海和尚(くうかいおせう)は念願(ねんぐわん)満足(まんぞく)せりとて檀(だん)を下(おり)給ひ徒弟(でしたち)を
従(したが)へて禁廷(きんてい)へ参(まいり)給へば。帝(みかど)大いに睿感(ゑいかん)在(ましま)し大 僧都(そうづ)に任(にん)ぜられ若干(そこばく)の采地(さいち)を給(たまは)り
けるを空海和尚(くうかいおせう)再(さい)三 辞退(じたい)し給へども勅許(ちよくきよ)なけ【ママ 衍ヵ】れは已事(やむこと)を得(え)ず拝受(はいじゆ)ありて天恩(てんおん)
を厚(あつ)く謝(しや)し給ひ欣然(きんぜん)として東寺(とうじ)へ帰院(きいん)し給ひけり。去程(さるほど)に甘雨(かんう)降(ふる)事三日三夜
に余(あま)りければ五 畿(き)七 道(どう)雨(あめ)のいたらぬ里(さと)もなく涸(かれ)たる池(いけ)も水 溢(あぶ)れ旱割(ひわれ)たる赤土(せきど)
も潤地(じゆんち)となりけるにぞ。万民(ばんみん)腹皷(はらつゞみ)を打(うつ)て怡(よろこ)び勇(いさ)み。空海和尚(くうかいおせう)の法力(ほふりき)を聞(きゝ)つたへて