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拝(おがま)んと男女(なんによ)数人(すにん)の従者(ずさ)を将(つれ)て。讃州(さんしう)屏風(べうぶ)が浦(うら)を立(たつ)てはる〴〵紀伊国(きのくに)へいたり給ひ。高(かう)
野山(やさん)の梺(ふもと)に着(つき)て先(まづ)使(つかひ)を空海和尚(くうかいおせう)の本坊(ほんばう)へ遣(つかは)し。登山(とうざん)すべきよしを通(つう)ぜしめられ
ければ。師(し)打駭(うちおどろ)き給ひ。我(わが)母公(はゝ)遠(とふ)く此(この)山へ来(きた)らせ給ふ御 志(こゝろざし)はいとも忝(かたしけな)けれども。当山(とうざん)
は開発(かいほつ)の始(はじめ)より固(かた)く女人結誡(によにんけいかい)の地(ち)と定(さだ)めたれば。母(はゝ)といへども登山(とうざん)あらん事 諸仏(しよぶつ)諸(しよ)
神(じん)へ恐(おそれ)あり。暫時(ざんじ)待(まち)給ふやう申せよ。我(われ)今(いま)些(すこし)の法要(ほふよう)なし果(はて)頓(やが)て下山(げさん)して母公(はゝぎみ)に御 対(たい)
面(めん)なし進(まいら)すべしとて使(つかひ)の武士(ぶし)を返(かへ)し給ひけるに。母公(ぼこう)は使者(ししや)の還(かへ)るを待(まち)わび給ひ
男女(なんによ)の従者(じふしや)を将(つれ)て早(はや)花坂(はなざか)にかゝり羊腸(ようちよう)たる山路(やまぢ)を剽(たどり)て分(わけ)登(のぼり)給ふ所(ところ)に俄然(がぜん)とし
て一 陣(ぢん)の魔風(まふう)吹起(ふきおこ)り。樹木(じゆもく)を動揺(どうよう)させ砂石(しやせき)を飛(とば)し。土煙(つちけふり)朦朧(もうろう)と立(たつ)て前路(ゆくさき)も見
え分(わか)ず成(なり)ければ。母公(ぼこう)をはじめ随従(つき〴〵)の男女(なんによ)も是(こは)けしからぬ山 風(かぜ)かなとて。側(かたへ)の木陰(こかげ)に
立寄(たちより)少時(しばし)休(やす)らひけれども。風(かぜ)は倍(ます〳〵)烈(はげ)しく剰(あまつさ)へ暴雨(ばうう)降出(ふりいだ)し雷電(らいでん)凄(すさま)じく鳴(なり)閃(ひらめ)きて。山 鳴(なり)
谷(たに)答(こた)へ震動(しんどう)する事 夥(おびたヾ)し。されども母公(ぼこう)は年(とし)老(おひ)ながら気丈(きじやう)の性(さが)にて少(すこ)しも恐(おそれ)れず