Gallicaの日本資料を翻刻!

コレクション: コレクション1

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ページ: 296

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先(まづ)卮(さかづき)【巵は俗字】を採(とつ)て酒宴(しゆえん)をはじめ浦島(うらしま)にさしければ。浦島(うらしま)は夢(ゆめ)に夢(ゆめ)見し心地(こゝち)しながら玉(たまの) 卮(さかづき)をとりて酒(さけ)を引受(ひきうけ)喫(きつ)するに其味(そのあぢは)ひ天(てん)の甘露(かんろ)ともいふべく数々(かづ〳〵)の佳肴(さかなもの)一ツとして 美味(びみ)ならざるはなく。しかも多(おほ)くの美女(びぢよ)は琴(こと)琵琶(びわ)を弾(ひき)笛(ふえ)鼓(つゞみ)を調(しらべ)て舞(まひ)諷(うた)ひ興(けう)を添(そへ) けるゆへ大いに興(けう)に入。しば〳〵卮(さかづき)【巵は俗字】を重(かさ)ね稍(やゝ)酩酲(めいてい)におよびける時(とき)。女は浦島(うらしま)が手(て)を携(たづさ)へて 錦帳(きんてう)の中(うち)へ伴(ともな)ひ入。七宝(しつほう)の枕(まくら)をならべて雲雨(うんう)のかたらひをなしけり。是(これ)より浦島(うらしま)は旦夕(あけくれ) 女と膝(ひざ)を交(まじへ)へて遊楽(ゆうらく)し。所々(しよ〳〵)の殿閣(でんかく)高楼(かうろう)へいたり見るに。其(その)壮観(そうくわん)言語(ごんご)に絶(ぜつ)し。庭前(ていぜん) に植(うえ)ならべたる梅(むめ)桃(もゝ)を先(さき)として。色々(いろ〳〵)の珍花(ちんくわ)一日の中(うち)に花(はな)咲(さき)菓(み)のり風(かぜ)和(やはら)かに吹(ふき)て暑(あつ) からず寒(さむ)からず二三月 頃(ごろ)の時候(じかう)のごとく。諸(もろ〳〵)の鳥(とり)翼(つばさ)も色(いろ)美(うるは)しく音(こゑ)鮮(あざや)かに囀り(さへづ)りけた ひ面白(おもしろ)き事 喩(たとへ)ん方なく。喜見城(きけんじやう)の栄花(ゑいぐわ)といふとも是(これ)にはよも勝(まさ)るべからずと思(おも)ふばかり なれば浦島(うらしま)は百念(ひやくねん)を忘(わす)れ。昼夜(ちうや)珍饌(ちんせん)美菜(びさい)に飽(あき)て楽(たのし)み暮(くら)す事 凡(およそ)三年 余(よ)に及(およ) びければ。不斗(ふと)故郷(こけう)の事を思(おも)ひ出(いだ)し。一日(あるひ)女に向(むか)ひ。我(われ)你(おこと)に誘(いざな)はれて此(この)館(やかた)【舘は俗字】へ来り早(はや)三年(みとせ)