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ともなく出行(いでゆき)其儘(そのまゝ)にて不帰(かへらず)親類(しんるい)朋友(ともだち)十日余(とふかあまり)も所々(しよ〳〵)方々(はう〴〵)を尋(たづね)けれども所在(ありか)しれず
夜鉤(よづり)【鈎は俗字】に出(いで)て悪魚(あくぎよ)にとられしか。難風(なんふう)にて異国(ことくにへ)吹流(ふきなか)されしものならんとて偖(さて)止(やみ)けりと。古(こ)
老(らう)の物語(ものがたり)に言伝(いひつたへ)たりと言(いは)れしが。其時(そのとき)よりさへ七十 余年(よねん)を経(へ)たり。然(しかれ)ば彼(かの)浦島(うらしま)が行方(ゆきがた)
しらずなりしは何百年(なんびやくねん)昔(むかし)の事とも計(はかり)しられず。其許(そこもと)は何(なに)ゆへさる往古(おほむかし)の事を問(とは)るゝやと言(いひ)
けるにぞ。浦島(うらしま)聞(きい)て以(もつて)の外(ほか)に駭(おどろ)き。我(われ)こそ其(その)水江(みづえ)の浦島(うらしま)候よ。一夜(あるよ)一人の美女(びぢよ)来(きた)り如此々々(かやう〳〵と)
言(いひ)しゆへ伴(ともな)はれて蓬莱(ほうらい)の都(みやこ)とやらんへ到(いた)り凡(およそ)三年(みとせ)が程(ほど)彼所(かしこ)に在(あり)しが。余(あま)り故郷(こけう)のなつか
しく。今 蓬莱(ほうらい)より立帰(たちかへり)たるに。御身(おんみ)の物語(ものがたり)にては数(す)百年 昔(むかし)の事とや。是(こ)は何(いか)なる事ぞ
更(さら)に不審(ふしん)はれずと。猶(なを)翁(おきな)に根問(ねどひ)葉問(はどひ)すれども。同(おな)じ答(こたへ)なれば為方(せんかた)なく。素(もとよ)り親類(しんるい)の端(はし)
も無(な)ければ。誰(たれ)にたよらん方(かた)もなく。今は旧(もと)の蓬莱宮(ほうらいきう)へ還(かへ)らんと思(おも)へども。何方(いづれ)の路(みち)より往(ゆく)ぞ
とも弁(わきま)へざれば。彼方(かなた)へ走(はし)り此方(こなた)へ戻(もど)り。只(たゞ)忙然(ぼうぜん)として心も空(そら)になり放心(きぬけ)せしごとく。さしも仙(せん)
女(ぢよ)の誡(いましめ)をも打忘(うちわす)れ。懐中(くわいちう)より彼(かの)玉手筥(たまてばこ)をとり出(いだ)し蓋(ふた)を開(ひら)き見れば。内(うち)より煙(けふり)の如(ごと)き白(はく)