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しき大力(だいりき)なりけり。抑(そも〳〵)逸勢(はやなり)は最澄(さいてう)《割書:伝|教》空海《割書:弘|法》と倶(とも)に入唐(につとう)し広(ひろ)く書経(しよけい)を学究(まなびきはめ)
博才(はくさい)なる上(うへ)双(ならび)なき能書(のふしよ)といひ膂力(ちから)さへ衆(しゆう)に勝(すぐれ)たるに。由(よし)なき隠謀(いんばう)を思(おもひ)たちて
縲紲(るいせつ)の辱(はづかしめ)を蒙(かうむ)り配流(はいる)の身(み)となりけるは。天魔(てんま)の所為(しよゐ)かとぞ疑(うたが)はれける。去程(さるほど)に
健岑(こはみね)逸勢(はやなり)召捕(めしとら)れければ。其(その)一族(いちぞく)家人(けにん)等(ら)大いに周障(しうしやう)し立騒(たちさはぎ)けるを。宦吏(やくにん)悉(こと〴〵)く
搦捕(からめとり)。使(し)の庁(てう)へ曳(ひき)けるゆへ。猶(なほ)同類(どうるい)や有(ある)と緊(きびし)く糺問(きうもん)せられけるに。逸勢(はやなり)は拷問(がうもん)【足+考は誤ヵ】に
屈(くつ)せず一 言(ごん)も白状(はくじやう)せざれども。健岑(こはみね)は苦痛(くつう)に堪(たえ)かねて白状(はくでう)す。是(これ)に依(よつ)て大納言(だいなごん)
愛発(ちかはる)。中納言(ちうなごん)吉野(よしの)。文屋秋津(ぶんやのあきつ)等(とう)を召捕(めしとり)糺明(きうめい)の上(うへ)宦(くわん)を剥(はい)で都(みやこ)を追放(ついほう)し。逸(はや)
勢(なり)健岑(こはみね)は隠謀(いんばう)の長本(てうぼん)なれば死罪(しざい)に極(きはま)りけるを。帝(みかど)格別(かくべつ)の御 仁心(じんしん)を以(もつ)て両人(りようにん)
の死罪(しざい)を宥(なだ)め給ひ。健岑(こはみね)は隠岐国(おきのくに)逸勢(はやなり)は伊豆国(いづのくに)へぞ流罪(るざい)に行(おこな)ひ給ひける
恒貞親王(つねさだしんわう)は初(はじめ)より隠謀(いんばう)の義(ぎ)務々(ゆめ〳〵)知召(しろしめさ)ざるよし陳謝(ちんしや)し給ふ。其(その)御 詞(ことば)偽(いつはり)ならず
聞えければ。其儘(そのまゝ)御 咎(とがめ)もなかりけれども。猶(なほ)も御疑(うたがひ)を晴(はら)し奉らんとや思召(おぼしめし)けん