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卿(げう)御 冢(つか)の上(ほとり)に菴(いほり)を結(むす)び陵(みさゝき)を守(まも)り諒闇(りやうあん)満(みち)て列位(おの〳〵)都(みやこ)へ還(かへ)られけるに独(ひとり)良(よし)
岑左少将宗貞(みねのさせうしやうむねさだ)のみ猶(なを)都(みやこ)へ還(かへら)ず冢(つかの)上(ほとり)に留(とゞま)り喪(も)に籠(こも)【𠖥は誤記ヵ】りけるが哀悼(あいたう)【左ルビ:かなしみ】のあまり
に一首(しゆ)の和哥(わか)を詠(えい)じける其歌(そのうた)に曰
深草(ふかくさ)の野辺(のべ)のさくらし心あらば此春(このはる)ばかり墨染(すみそめ)にさけ
斯(かく)詠(えい)じければ不思議(ふしぎ)なるかな年々(ねん〳〵)雪(ゆき)を欺(あざむ)くばかり白妙(しろたへ)に咲(さき)し桜花(さくらばな)其年(そのとし)
は薄墨色(うすずみいろ)に咲(さき)けり。実(げに)や和哥(わか)の徳(とく)は天地(あめつち)を動(うごか)し眼(め)に見えぬ鬼神(おにかみ)をも感(かん)
ぜしむると古今(こきん)の序(じよ)に書(かき)しも宜(むべ)なるかな。草木(さうもく)非情(こゝろなし)といへども。宗貞(むねさだ)が忠誠(ちうせい)と
詠哥(よみうた)の至妙(しめう)なるに感(かん)じて天性(てんせい)の本色(ほんしよく)を変(へん)じ墨染色(すみぞめいろ)に咲(さき)けるぞやさしかりける
是(これ)より其(その)桜(さくら)を世人(よのひと)墨染桜(すみぞめざくら)と呼(よび)地名(ちめい)をも墨染(すみぞめ)の里(さと)と号(がう)しけり。昔(むかし)唐山(もろこし)
尭帝(ぎやうてい)の二人の皇女(かうによ)娥皇(がくわう)。女英(ぢよえい)姉妹(おとゞい)は舜帝(しゆんてい)の后(きさき)に備(そな)はり瀟湘(しやう〳〵)といふ所(ところ)に離宮(りきう)を
建(たて)住(すみ)玉ひけるに。虞舜(ぐしゆん)崩御(ほうぎよ)在(あり)しかば。二人の后(きさき)泣悲(なきかなしみ)給ひける其涙(そのなみだ)の。園(その)の