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冠(かむり)を高(たか)く被(き)なし鵬(おほとり)の歩(あゆむ)が如(ごと)く動(ゆる)ぎ出(いづ)る。其(その)身材(みのたけ)七尺 余(ゆたか)にて眼(まなこ)の光(ひかり)星(ほし)のごとく
観骨(ほうぼね)高(たか)く口 方(けた)にて虎鬚(とらひげ)腮(あぎと)の左右(さいう)に狼藉(らうぜき)と生(おひ)。手脚(てあし)の筋(すぢ)節(ふし)くれ立(だち)古木(こぼく)
に葛(ふぢ)の捲(まき)しが如(ごと)く。黒髭(くろひげ)繁(しげ)く生(おひ)たるは左(さ)ながら金剛神(こんがうじん)に彷彿(はうほつ)【注①】としてさも怕(おそろ)
しくぞ見えたりける。斯(かく)て名虎(などら)意気(いき)揚々(やう〳〵)として設(まうけ)し左の掾座(わらうざ)の上(うへ)にむんづと
坐(ざ)しければ。頓(やが)て右の幕(まく)の内(うち)より少将(せうしやう)伴善雄(とものよしを)【注②】同(おなじ)く犢鼻褌(とくびこん)の上に。白(しろ)き狩衣(かりぎぬ)
に夕皃(ゆふがほ)の仮花(つくりばな)付(つけ)たるを着(ちやく)し。例(れい)なれば石(いしの)帯(おび)を着(つけ)ず。太刀(たち)を左手(ゆんで)に把(とつ)て小脇(こわき)に
掻籠(かいこみ)徐々(しづ〳〵)と立出(たちいで)たり。身材(みのたけ)五尺七八寸 色(いろ)白(しろ)く柔和(にうわ)の面貌(おもざし)威(い)有(あつ)て猛(たけ)からず
是(これ)も右に設(まうけ)たる掾座(えんざ)の上に坐(ざ)しけり。偖(さて)両人(りようにん)君(きみ)の玉座(ぎよくざ)に向(むか)ひて礼(れい)をなし。双方(そうはう)
立上(たちあが)り狩衣(かりぎぬ)を脱(ぬい)で掾座(えんざ)の上に置(おき)。其上(そのうへ)に太刀(たち)を置(おい)て。犢鼻褌(とくびこん)のみにて裸(あかはだか)と
なり。互(たがひ)に相撲場(すまふぢよう)へ立入(たちいり)中央(ちうわう)へ歩寄(あゆみより)面(おもて)を見合(みあは)し一 揖(ゆう)して中腰(ちうごし)につくばいければ
立合(たちあは)せの宦人(くわんにん)金(きん)の幣(へい)を採(とつ)て。是(これ)も御簾(ぎよれん)に向(むか)ひ低頭(ていとう)して相撲場(すもふば)へ歩入(あゆみいり)両人(りようにん)の
【注① 「はうほつ」は法政大学 国際日本学研究所所蔵資料の『扶桑皇統記図会』にて確認。】
【注② 329コマには「良雄」としている】