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西方(さいはう)大威徳明王(だいいとくめうわう)仰(あふ)ぎ願(ねがは)くは善雄(よしを)に力(ちから)を添(そへ)相撲(すもふ)に勝(かた)しめ給へと。明王(めうわう)の真(しん)
言(ごん)を唱立(となへたて)黒汗(くろあせ)を流(なが)して祈(いの)られければ。生仏(しやうぶつ)もとより隔(へだて)なく恵亮(ゑりやう)が信力(しんりき)本尊(ほんぞん)
にや通(つう)じけん。大威徳(だいいとく)の乗(のり)玉へる画図(ぐわと)の水牛(すいぎう)忽(たちま)ち眼(まなこ)を瞋(いから)し大いに声(こえ)を発(はつ)
して吼(ほえ)たりける。其声(そのこえ)遠(とふ)く大内(おほうち)まで聞(きこ)えけるとぞ。恵亮(ゑりやう)は此(この)奇特(きどく)を見て大に
勇(いさ)み弥(いよ〳〵)真言(しんごん)を高声(かうしやう)に唱(とな)へ身命(しんみやう)を拋(なげう)つてぞ祈(いの)られける。是(これ)より前(さき)に禁廷(きんてい)に
は立合(たちあはせ)の宦人(くわんにん)よきしほに指(さい)たる幣(へい)を引(ひき)ければ。名虎(なとら)善雄(よしを)やつとかけ声(ごゑ)とともに
立合(たちあひ)少時(しばらく)は手先(てさき)にて挑(いど)み合(あひ)けるに。名虎(などら)疾(はや)く善雄(よしを)が腕首(うでくび)とつて曳(ひき)よせ
直(すぐ)に犢鼻褌(とくびこん)の結目(ゆひめ)掻掴(かいつか)み。目(め)より高(たか)く指揚(さしあげ)曳(ゑい)やと言(いひ)さま一 丈(じやう)許(ばかり)空(そら)さま
に投揚(なけあげ)けるにぞ。上下の看宦(けんぶつ)あはや四の宮(みや)方(がた)負(まけ)けりとおもふ所(ところ)に。左(さ)はなくて善(よし)
雄(を)は宙(ちう)にて閃(ひら)りと反(かへ)り。地上(ちじやう)に落(おつ)るとひとしくすつくと立(たつ)たり。諸人(しよにん)是(これ)を見てあつと
感(かん)じ誉(ほむ)るうち。名虎(などら)は憤然(ふんぜん)として再(ふたゝ)びつと寄(より)肩口(かたぐち)を掴(つか)んで投(なげ)んとするを