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せばやと非分(ひぶん)の望(のぞみ)を起(おこ)し自己(みづから)つら〳〵思(おも)ひけるは。当寺(とうじ)左大臣(さだいじん)は源信(みなもとののぶみ)右大臣は藤(ふぢ)
原良相(はらのよしすけ)なり。我(われ)手段(てだて)を迴(めぐら)し信(のぶみ)を罪(つみ)に落(おと)さば良相(よしすけ)を左大臣(さだいじん)に転(てん)ぜられ。右大(うだい)
臣(じん)はさしづめ我(われ)を任(にん)ぜらるべしと。身勝手(みがつて)の了簡(りやうけん)を定(さだ)め。浪士(らうにん)大宅鷹取(おほやのたかとり)といへる嗚(お)
呼(こ)の曲者(くせもの)をかたらひ暗(ひそか)に内裏(だいり)の応天門(おうてんもん)に火(ひ)をさゝせけるに忽(たちま)ち焰々(ゑん〳〵)と燃上(もえあが)りける
是(これ)に依(よつ)て衛府(ゑふ)の宦人(くわんにん)下司(したづかさ)等(ら)大に駭(おどろ)き。馳聚(はせあつまつ)て火(ひ)を消(けさ)んと働(はたら)けども。火勢(くわせい)強(つよ)く
遂(つひ)に応天門(おうてんもん)焼失(せうしつ)しけり。然(しかれ)ども自余(じよ)の殿宇(でんう)は幸(さいはひ)に別条(べつでう)なし。撿非違使(けびゐし)の別当(べつとう)
事(こと)の体(てい)をよく〳〵撿(あらたむ)るに。正(まさ)しく犯人(ぼんにん)有(あつ)て火(ひ)をさしたるに紛(まぎれ)なければ。是(これ)隠謀(いんばう)を企(くはだつ)る
族(やから)の所為(しよゐ)なるべしと。人夫(にんぶ)を四方へ配(くば)り洛内(らくちう)洛外(らくぐわい)とも厳(きびし)く鑿穿(ぎんみ)しけれども何者(なにもの)
の所為(しわざ)とも敢(あへ)て分明(ふんめう)ならざりける。善雄(よしを)は仕(し)すましたりと悦(よろこ)び一日(あるひ)右大臣(うだいじん)良相(よしすけ)の館(やかた)へ
到(いた)り。対面(たいめん)して声(こゑ)を低(ひそ)め。応天門(おうてんもん)に火(ひ)をさしたる犯人(ぼんにん)を誰(たれ)なるらんと思(おも)ひ候ひしに。豈(あに)
はからん左大臣(さだいじん)信(のぶみ)の所業(しわざ)なりと告(つぐ)る者あり。察(さつ)するに彼人(かのひと)謀叛(むほん)を企(くはだて)帝(みかど)を傾(かたむ)け奉(たて)