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する色(いろ)なく。是(こ)はよき折(をり)に参(まい)り逢(あひ)たり。いで我(われ)も一手(ひとて)仕(つかまつ)らんとて弓場(ゆば)に立出(たちいで)弓箭(ゆみや)打(うち)つがへ
て的(まと)に向(むか)ひ給ふ有(あり)さま。体(たい)よく治(おさま)り整(とゝの)ひて。射術(しやじゆつ)鍛煉(たんれん)の士(し)の身(み)の備(そなへ)も斯(かく)やとおもふ許(ばかり)なり人(ひと)
々(〳〵)案(あん)に相違(さうゐ)しながら。猶(なを)形容(けいよう)ばかり賢々(さか〳〵)しくとも真(まこと)の事(わざ)は争(いかで)かと。息(いき)を詰(つめ)て見(み)居(ゐ)たる
うち。菅公(かんこう)はねらひを定(さだ)めて兵(ひやう)ど切(きつ)て放(はな)し給ふに。其矢(そのや)過(あやま)たず的(まと)の真中(たゞなか)に発止(はつし)と中(あたり)ける
是(これ)を始(はじめ)として十 枝(し)の矢(や)一枝(ひとすじ)も空矢(あだや)なく尽(こと〴〵)く的(まと)に射中(いあて)給ふ事。誠(まこと)に百発百中(ひやくはつひやくちう)とも謂(いひ)つ
べき手煉(しゆれん)なりけるにぞ衆人(みな〳〵)惘(あきれ)果(はて)我(われ)を忘(わす)れて■(あつ)【「口+一+中」は辞書に無し。「呀」ヵ】と感ずるばかりなり。都良香(とりやうけう)先(せん)
剋(こく)より物蔭(ものかげ)に在(あり)て見物(けんぶつ)せられけるが。感嘆(かんたん)のあまり立出(たちいで)て大いに賞美(せうび)し。種々(しゆ〴〵)の引出物(ひきでもの)
を進(まいら)せ酒宴(しゆえん)を催(もよほ)して管侍(もてなさ)れけり。其後(そのゝち)元慶(げんきやう)四年に御 父(ちゝ)是善卿(ぜゝんけう)薨去(こうきよ)ありける菅(かん)
公(こう)御年三十六才なり。其(その)翌年(よくねん)正月 加賀権守(かゞごんのかみ)を兼(かね)て加州(かしう)へ任国(にんこく)に赴(おも[む])き給ひ。次(つぎ)の年(とし)任(にん)
満(みち)て都(みやこ)へ皈(かへ)り給ひ。則(すなは)ち其年(そのとし)渤海(ぼつかい)の裴頲(はいてい)来朝(らいてう)しけるゆへ権(かり)に治部太輔(ぢぶのたゆう)となりて存問(そんもん)
使(し)とはなり給ひしなり。誠(まこと)に本朝(ほんてう)の名臣(めいしん)とは菅公(かんこう)の御 身上(みのうへ)を申べしと云々