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ませ玉ふ上御 徒然(つれ〴〵)の折(をり)なれば大いに悦(よろこ)ばせ給ひ。子細(しさい)なく勅許(ちよくきよ)ありけるにぞ。基経公(もとつねこう)は疾(とく)
より二 条(でう)陽成院(やうぜいいん)の殿中(でんちう)に一 室(しつ)を構(かま)へ四 方(はう)に蜘手(くもで)を入 如何(いか)なる怪力(くわいりよく)勇悍(ゆうかん)の者(もの)なりとも
押破(おしやぶり)がたきやうにしつらひ置(おき)幄(たれぬの)を垂(たれ)て是(これ)を隠(かく)し。翌日(よくじつ)早旦(さうたん)に御 迎(むかへ)のため参内(さんだい)あり
ければ。帝(みかど)は欺謀(たばかる)とは露(つゆ)知(しり)玉はず宝輦(ほうれん)に乗(めし)て出御(しゆつぎよ)なし給ひけり。基経公(もとつねこう)は御随臣(みずいしん)
駕輿丁(かよてう)們(ら)に密意(みつい)を言含(いひふくめ)足早(あしばや)に陽成院(やうぜいいん)へ渡御(とぎよ)なし進(まいら)せ。暗(ひそか)に御剣(ぎよけん)を奪(ばひ)とり
件(くだん)の一室(ひとま)へ入奉り。外面(そとも)より扉(とぼそ)を固(かた)く鎖(とざ)されければ。帝(みかど)大いに駭(おどろ)かせ給ひ。是(こ)は如何(いかゞ)計(はか)らひ
ぬるやと問(とひ)給ふに。基経公(もとつねこう)威儀(いぎ)を正(たゞ)され。恐(おそれ)ながら君(きみ)御 狂病(きやうびやう)募(つの)らせ給ひ。科(とが)なき者を
数多(あまた)傷(そこな)はせ給ふがゆへ天照皇太神(あまてらすおゝんかみ)への畏(かしこま)りに御位(みくらゐ)を下(おろ)し奉り。此御所(このごしよ)にて御 保養(ほやう)させ
進(まい)らせ候なり。願(ねがは)くは御心(みこゝろ)を鎮(しづめ)給ひ静(しづか)に御 養生(やうぜう)なし給ふべしと奏聞(そうもん)ありければ帝(みかど)大いに
泣悲(なきかなし)み給ひ。さま〴〵に謝(か?び)【「わ」の誤ヵ】給へども叶(わ?な)【「か」の誤ヵ 注】はせ玉はず。遂(つひ)に閉居(へいきよ)の御 身(み)とならせ給ふぞ力(ちから)なき。基(もと)
経公(つねこう)は禁廷(きんてい)へ帰(かへ)られ。火急(くわきう)に使者(ししや)を廻(まは)して諸卿(しよけう)を集(つど)へ。主上(しゆぜう)御 狂病(きやうびやう)頻(しきり)なるゆへ
【注 「わ」と「か」の振り仮名の打ち間違いではと思われる。】