Gallicaの日本資料を翻刻!

コレクション: コレクション1

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  君(きみ)がためはるの野(の)に出(いで)てわか菜(な)つむ我(わが)衣手(ころもて)にゆきは降(ふり)つゝ と詠(えい)じ給ひしかば。基経公(もとつねこう)右(みぎ)の御 哥(うた)を吟(ぎん)じて大いに感情(かんぜう)を催(もよほ)され。厚(あつ)く御 礼(れい)を申上 られけるが。其時(そのとき)より時康親王(ときやすしんわう)を贔屓(ひいき)におもふ心 起(おこ)れり。素(もとよ)り親王(しんわう)の御 為性(ひとゝなり)篤実(とくじつ) 貞正(ていせい)の君(きみ)なれば。旁(かた〴〵)以(もつ)て今般(このたび)帝位(ていゐ)に進(すゝ)められたるなり。時康親王(ときやすしんわう)は仁明帝(にんみやうてい)の皇子(みこ) ながら。文徳(もんどく)清和(せいわ)陽成(やうぜい)三 帝(てい)の御 世(よ)を経(へ)て。世(よ)に埋(うづ)もれいとも邃(かすか)に暮(くら)し給ひ。世(よ)の人 一品式部卿親王(いつほんしきぶけうしんわう)と称(しやう)し。参(まい)り仕(つかふ)る人もなかりけるに思(おもひ)もよらず今度(こんど)十 善(ぜん)の帝祚(ていそ) に定(さだ)まり給へば。古骨(こゝつ)再(ふたゝ)び脂(あぶら)づき。枯木(かれき)に花(はな)の咲(さき)しごとく。貴賎(きせん)とも目覚(めさま)しき事におもひ けり。平城(へいぜい)嵯峨(さが)淳和(じゆんわ)の三 帝(てい)は専(もつぱ)ら詩文(しぶん)を好(この)ませ給ひしゆへ。朝廷(てうてい)の公卿(こうけい)皆(みな)詩賦(しふ) 作文(さくぶん)に心を寄(よせ)けるに。時康親王(ときやすしんわう)一 首(しゆ)の哥(うた)の徳(とく)にて王位(わうゐ)に即(つか)せ玉ひしかば。是(これ)より 諸人(しよにん)歌道(かどう)に心を傾(かたふ)け。和哥(わか)の道(みち)大いに興(おこ)り。追々(おひ〳〵)名人(めいじん)も出来(でき)たりけり。誠(まこと)に倭哥(やまとうた) 神代(かみよ)より伝(つた)はる皇国振(みくにぶり)にて其徳(そのとく)測(はかり)なし。最(もつと)も男女(なんによ)とも心 掛(がく)へき道(みち)なりけり