← 前のページ
ページ 39 / 521
次のページ →
翻刻
逃延(にげのび)て命(いのち)ばかりは助(たすか)りけり。郡司(ぐんじ)は投(なげ)られて落(おち)さまに首(くび)の骨(ほね)を突折(つきをつ)て即死(そくし)したり誠(まこと)
に胆沢(いさは)が挙止(ふるまひ)人間業(にんげんわざ)とはみ見えざりけり。悪(あく)太郎は馬(むま)に打乗(うちのり)太刀を電光(でんかう)のごとく打閃(ひらめ)
かして敵中(てきちう)を縦横(じふわう)無尽(むじん)に蒐回(かけまは)り敵(てき)を討(うつ)事 数(かづ)をしらず。是(これ)に依(よつ)て京軍(きやうぐん)胆沢(いざは)一
人に斬立(きりたて)られ隊(そなへ)粉々(ふん〳〵)と乱(みだ)れ浮足(うきあし)になりければ。賊軍(ぞくぐん)は勢(いきほ)ひを増(まし)驀地暗(まつしくら)に蒐立(かけたて)
ける大伴益立(おほともましだち)は先隊(さきて)の戦(たゝか)ひ難義(なんぎ)なりと聞(きゝ)是(これ)を救(すくは)んと残(のこ)る五百 騎(き)を一隊(ひとそなへ)とし
押出(おしいだ)さんとする所(ところ)に思(おもひ)もよらぬ山蔭(やまかげ)より金窪兵太(かなくぼひやうだ)三百 騎(き)にて殺出(さつしゆつ)す益立(ましだち)が勢(せい)は
不意(ふい)の敵(てき)に周障(しうせう)し先隊(さきて)を救(すく)ふ遑(いとま)なく金窪(かなくぼ)が勢(せい)と喚(おめき)叫(さけ)んで戦(たゝか)ふたり。此時(このとき)賊方(ぞくがた)
は敵(てき)の後陣(ごぢん)に鯨波(ときのこゑ)の聞ゆるを以(もつ)て金窪(かなくぼ)の勢(せい)の敵(てき)の後陣(ごぢん)へ伐入(うちいり)しを知(しり)柵(さく)に残(のこ)る
二百人も伐(うつ)て出(いで)胆沢(いざは)が勢(せい)と一隊(いつて)に成(なつ)て敵(てき)を追捲(おひまく)るにぞ。いとゞ浮立(うきたち)し京軍(きやうぐん)揕(こらへ)かね
て敗走(はいそう)し益立(ましだち)か陣(ぢん)へなだれかゝる。益立(ましだち)は是(これ)を敵軍(てきぐん)襲(おそ)ひかゝるぞと心得(こゝろえ)。今は叶(かな)はじとて
一 番(ばん)に馬(むま)を拍(うつ)て逃出(にげいだ)しけるにより。従卒(じふそつ)も是(これ)に誘(さそ)はれ総敗(そうやぶれ)と成(なつ)て散々(さん〴〵)に落行(おちゆく)を賊(ぞく)