← 前のページ
ページ 392 / 521
次のページ →
翻刻
思召(おぼしめし)ての故(ゆへ)とかや。去程(さるほど)に帝(みかど)は御 博識(はくしき)なる上御 年闌(としたけ)給へば万機(ばんき)の政(まつりごと)を聴召(きこしめす)に御 裁判(さいばん)
明(あきら)かにて仁政(じんせい)を専(もつはら)とし給ひ。小松(こまつ)の宮(みや)に在(いま)せし時(とき)市民(てうにん)どもなどに金銀(きん〴〵)を借用(しやくよう)なし給ひ
しをも。今度(こんど)悉(こと〴〵)く召出(めしいだ)され。利足(りそく)を加(くは)へて償(つくの)ひをなし玉ひけるゆへ。下々(しも〴〵)の人民(にんみん)帝徳(ていとく)を讃(さん)
美(び)し天晴(あつはれ)名君(めいくん)かなとて大いに悦伏(ゑつふく)し。四海(しかい)波(なみ)静(しづか)にぞ治(おさま)りける。時(とき)に帝(みかど)御 生得(せうとく)遊猟(かりくら)
を好(この)ませ給ひ神泉苑(しんせんえん)に御幸(みゆき)し給ひては。鷹(たか)を放(はな)たせて池(いけ)の鳥(とり)をとらしめ。其(その)他(ほか)所々(しよ)へ
御狩(みかり)の御幸(みゆき)ありけるが。仁和(にんわ)二年十二月四日 芹川(せりかは)へ御狩(みかり)の御幸(みゆき)なし玉はんとて。或(ある)臣下(しんか)の
申に任(まか)せ。中納言(ちうなごん)在原行平(ありはらのゆきひら)を大鷹(おほたか)の鷹飼(たかかひ)にぞ宣下(せんげ)し給ひける。抑(そも〳〵)在原行平(ありはらのゆきひら)と申は
平城(へいぜい)天皇の皇子(わうじ)阿保親王(あほしんわう)の嫡男(ちやくなん)にて業平(なりひら)の舎兄(しやきやう)なれば。王氏(わうし)を出(いで)て遠(とふ)からず。弘仁(かうにん)
九年に誕生(たんぜう)せられしを伊都内親王(いとないしんわう)養子(やしなひこ)となし給へり。天性(てんせい)明敏(めいびん)聡慧(そうけい)にて幼年(ようねん)より
経史(けいし)を学(まな)び才機(さいき)諸人(しよにん)に勝(すぐ)れ。天長(てんちよう)三年 在原(ありはら)の姓(せい)を賜(たまは)り。承和(しやうわ)二年 蔵人頭(くらふどのかみ)に補(ほ)
せられ斉衡(さいかう)二年 従(しふ)四 位(ゐ)に叙(じよ)し因幡守(いなばのかみ)に任(にん)ぜられて其(その)任国(にんこく)へ赴(おもむ)く折(をり)京(きやう)を出(いづ)るとて