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愈(ゆ)を祈(いの)らんためなり。朕(ちん)近国(きんごく)を巡(めぐ)るとも敢(あへ)て他所(たしよ)を尋(たづぬ)るに及(およ[ば)]ず。丹州(たんしう)水尾山(みづのをやま)の
奥(おく)なる古木(こぼく)の檜(ひのき)の下(もと)を朕(ちん)が居所(きよしよ)とおもひ。要用(よう〳〵)あるときは右の檜(ひのき)の下(もと)に到(いたり)て待(まち)候へ朕(ちん)
たとへ他所(たしよ)へ往(ゆく)とも遂(つひ)には水尾山(みづのをやま)へ還(かへ)るなりと宣(のたま)ひけるゆへ。基経公(もとつねこう)も諸(しよ)臣下(しんか)の人
々も漸(よふや)く心をぞ安(やす)んじける。其後(そのゝち)又 例(れい)のごとく仮初(かりそめ)のやうに出御(しゆつぎよ)なし給ひ更(さら)に還御(くわんぎよ)な
し玉はざれば。臣下(しんか)の面々(めん〳〵)さらば丹州(たんしう)へ御 迎(むかひ)に参(まい)れよとて衆人(みな〳〵)水尾山(みづのをやま)へ分登(わけのぼ)り見るに
果(はた)して年経(としふる)檜(ひのき)の一 大樹(たいじゆ)ありて樹下(じゆか)に一塊(ひとつ)の岩(いは)あり。其上(そのうへ)に上皇(ぜうかう)の御 座具(ざぐ)有(あり)ければ。扨(さて)
は兼(かね)ての勅詔(ちよくぜう)のごとく此所(このところ)へ還御(くわんぎよ)なし給ふべしとて。一日(ひとひ)二日(ふたひ)と待(まち)奉りけるに。更(さら)に還(かへ)らせ
玉はず。余(あま)りに待(まち)わびもし山 奥(おく)などに御座(おはす)る事もやとて一 山(さん)残(のこ)る所(ところ)なく尋(たづね)奉れども
更(さら)に見え玉はず。是(こ)は不審(ふしん)なりとて都(みやこ)へ人を走(はしら)せ関白殿(くわんばくどの)に斯(かく)と訴(うつた)へければ。自余(じよ)の公(こう)
卿(けい)も追々(おひ〳〵)水尾(みづのを)山へ馳着(はせつけ)群集(くんじゆ)して丹波(たんば)一 国(こく)の山々(やま〳〵)を尋(たづね)捜(さが)し奉れども猶(なを)御在所(ございしよ)相知(あいしれ)
ず諸卿(しよけう)手(て)を空(むなし)うして忙然(ぼうぜん)と惘果(あきれはて)けるに。一人の臣下(しんか)。彼(かの)岩上(いはのうへ)の御 座具(ざぐ)の以(もつて)の外(ほか)薫(かを)り