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ぬるは如何(いかに)といふにぞ。列位(おの〳〵)気(き)を鎮(しづ)め鼻息(はないき)を引(ひい)て嗅(きく)に。実(げに)も御 座具(ざぐ)の香気(かうき)伽(きや)
羅)(ら)沈香(ぢんかう)にも勝(まさ)りて馨(かうば)しく。後(のち)には漸々(しだい)に香気(かうき)高(たか)くなり余熏(よくん)山中(さんちう)に満(みち)わたりける
人々(ひと〴〵)奇異(きい)の思(おもひ)をなし議(ぎ)して曰。昔(むかし)天智天皇(てんちてんわう)は崩御(ほうぎよ)の後(のち)御 棺(ひつぎ)に御 沓(くつ)のみ遺(のこ)り
有(あつ)て尊骸(そんがい)無(なか)りしかば。登天(とうてん)し玉へりと謂(いへ)り。今 上皇(じやうかう)も正(まさ)しく昇天(しやうてん)し給ふなるべし。然(しから)
ば何時(いつ)まで此所(こゝ)にて待(まち)奉るとも其(その)詮(せん)有(ある)べからず。不如(しかじ)都(みやこ)へ還(かへ)り此(この)趣(おもむ)きを奏(そう)せん
にはと衆議(しゆうぎ)一 致(ち)し。御 座具(ざぐ)をとりて皆(みな)都(みやこ)へ還(かへ)り。有(あり)し次第(しだい)を奏聞(そうもん)しければ帝(みかど)頗(すこぶ)る
御 駭(おどろ)きあつて。普(あまね)く日本(につほん)国中(こくちう)山の奥(おく)浦(うら)の端(はし)まで宣旨(せんじ)を伝(つたへ)られ。前太上皇(さきのだぜうかう)の御 行(ゆく)
方(ゑ)を尋(たづね)捜(さが)させ給へども。終(つひ)に見(み)えさせ玉はず。偖(さて)は弥(いよ〳〵)昇天(せうてん)し給ひしに事(こと)極(きはま)れりとて即(すなは)
ち水尾山(みづのをやま)を陵(みさゝき)とし。清和天皇(せいわてんわう)と謚(おくりな)を奉(たてまつ)り給ふ。時(とき)に宝算(おんとし)三十一才にならせ給へり。水(みづの)
尾山(をやま)を常(つね)に愛(あい)し給ひしゆへ水尾帝(みづのをのみかど)とも申奉れり。実(まこと)に不思議(ふしぎ)の御事なりけり。其後(そのゝち)
主上(しゆぜう)御 方違(かたたがひ)の御幸(みゆき)在(ましま)しける夜(よる)の路次(ろし)にて盲人(もうじん)数(す)十人 打連(うちつれ)だちたるが警(けい)𧫤(ひつ)【ママ】の