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後々(のち〳〵)に大床(おほゆか)へ這上(はひのぼ)るに御殿(ごてん)の簀子(すのこ)の下より長大(おほい)なる蛇(へび)数千(すせん)這(はひ)出て。上(のぼ)り来(く)る蟇(ひき)
を呑(のま)んとす衛士(ゑじ)ども又是を怪(あやし)みながら。攫退(さらへのけ)るにもて余(あま)せし蟇(かいる)なれば。却(かへつ)て僥倖(さいはひ)の
事よと攫(さらへ)を止む(とめ)てながめ居けるに。尋常(よのつね)は蛇(へび)が蛙(かいる)を呑(おむ)ならひなるに。其(それ)とは事 変(かは)りて
蟇(かいる)ども口を張(はつ)て蛇(へび)を呑(のみ)ける。其(その)勢(いきほ)ひ甚(はな)はだ恐(おそろ)しく。或(あるひ)は蛇(へび)の首(くび)より呑もあり。或(あるひ)は蛇(へび)を二
に噛切(かみきつ)て呑(のむ)もあり。其他(そのほか)種々(さま〴〵)にして遂(つひ)に蛇(へび)を呑(のみ)尽(つく)し。蟇(かいる)は勝鬨(かちどき)を揚(あぐる)がごとく一 斉(せい)に
鳴(なき)て人も追(おは)ざるに御門(ごもん)の外へ這出(はひいで)悉(こと〴〵)く消失(きえうせ)ける。諸人(しよにん)評(ひやう)して曰。是は先帝(せんてい)《割書:陽|成》蛙(かはづ)を集(あつめ)
蛇(へび)に呑(のま)せて興(きやう)じ給ひし其酬(そのむく)ひを示(しめ)すならんと言合(いひあへ)り。また一時(あるとき)は御坪(みつぼ)の内の松(まつ)の上に
異形(いげう)の人立て。手(て)に弓矢(ゆみや)を携(たづさ)へ矢を放(はな)つ事 毎夜(まいよ)止(やま)ず。其矢(そのや)の落(おつ)る所(ところ)をいかに捜(さがせ)ども
敢(あへ)てしれず。直宿(とのゐ)の衛士(ゑじ)樹上(じゆせう)に怪(あやし)き者を弓矢(ゆみや)もて射(いる)に矢(や)の中(あた)る時(とき)は消失(きえうせ)て間(ま)
もなく又 現(あらは)れ。矢の中(あたら)ざる時(とき)は噇(どつ)とわらふ。其(その)笑声(わらふこゑ)は数(す)十人の声のごとくなれども。現(あらは)れし
者は一人なり。是も諸人(しよにん)の評(ひやう)には。先帝(せんてい)罪(つみ)なき者を樹頭(きのそら)へ上(のぼ)らせて射殺(いころ)し給ひし。其(その)怨(おん)