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御 幼稚(ようち)の御 時(とき)より学問(がくもん)を好(この)ませ給ひ万(よろづ)賢々(さか〳〵)しく御座(おはしまし)けるが。一時(あるとき)道真卿(みちざねけう)へ令旨(れうし)を
下され。我(われ)聞(きく)唐土(もろこし)は一日に百首(ひやくしゆ)の詩(し)を作(つくり)し人 是(これ)彼(かれ)数人(すにん)有(あり)と聞(きけ)り。卿(なんじ)は幼少(ようせう)の時(とき)より能(よく)
詩(し)を作(つく)り。況(いはんや)今 文学(ぶんがく)に富(とみ)。才智(さいち)其(その)右(みぎ)に出(いづ)る者なし。彼(かの)一日に百詩(ひやくし)を賦(ふ)せしは物(もの)かは。七(ひち)
歩(ほ)に奇句(きく)を吐(はき)し才(さい)にも劣(おとる)べからず。依(よつ)て一時(ひとゝき)の内(うち)に十 首(しゆ)の詩(し)を作(つくり)て見すべしとて題(だい)
を給(たま)はりければ。道真卿(みちざねけう)少(すこし)も辞(じ)し玉はず領掌(れうぜう)ありて。其日(そのひ)の酉(とり)の剋(こく)より戌(いぬ)の剋(こく)の初(はじめ)まで
に安々(やす〳〵)と十 首(しゆ)の詩(し)を賦(ふ)して献(たてまつ)り給ひけり。其(その)中(なか)にも殊(こと)に秀逸(しふいつ)と聞(きこ)えしは
《振り仮名:送_レ春不_レ用_レ動_二舟車_一|はるをおくるにしうしやをうごかすことをもちひす》 唯(たゞ)《振り仮名:別_三残鴬與_二落花_一|ざんわうとらくくわとにわかる》
若(もし)《振り仮名:使_三韶光知_二我意_一|せうかうとしてわがこゝろをしらしめば》 今宵旅宿(こよひのりよしゆくは)《振り仮名:在_二詩家_一|しかにあらん》
右の詩(し)は後年(こうねん)大納言(だいなごん)公任(きんとう)朗詠集(らうゑいしう)を撰(えらび)し時(とき)加(くは)へられけり。其次(そのつぎ)の年(とし)道真卿(みちざねけう)春(とう)
宮(ぐう)の御所(ごしよ)へ参(まい)られけるに。敦仁親王(あつひとしんわう)仰(あふせ)けるは。去年(きよねん)一 時(じ)に十 首(しゆ)の詩(し)を作(つくり)しを以(もつ)て卿(なんじ)の宏才(くわうさい)
を知(しる)に足(たれ)りといへども。試(こゝろみ)に今 二時(ふたとき)の中(うち)に二十 首(しゆ)の詩(し)を作(つくり)てんやと望(のぞみ)給ひければ。いと安(やす)き