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聚(あつめ)て酒宴(さかもり)をし雑談(ぞうたん)せられける中に当時(とうじ)世(よ)に勝(すぐれ)たる美人(びじん)といふは誰(たれ)なるらんと問(とは)れ
ければ平貞文(たいらのさだぶん)といふ者 答(こたへ)て。当世(とうせい)一の美人(びじん)と申は。君(きみ)の御 伯父(おぢ)大納言(だいなごん)国経卿(くにつねけう)の北堂(きたのかた)
に勝(まさ)る女姓(によせう)はなく候と言(いひ)けるを。時平(ときひら)耳(みゝ)に留(とめ)。其夜(そのよ)の酒宴(しゆえん)果(はて)て皆(みな)退散(たいさん)したりけり
翌日(よくじつ)叔父(おぢ)国経(くにつね)の許(もと)へ使者(ししや)を立(たて)。子細(しさい)有(あつ)て一 夜(や)貴館(きかん)【舘は俗字】へ方違(かたゝがひ)に参(まいり)たき由(よし)言(いは)せけれ
ば。国経(くにつね)は我甥(わがおひ)ながら当時(とうじ)権勢(けんせい)肩(かた)を並(ならぶ)る人もなき時平(ときひら)の頼(たのみ)なれば一 議(ぎ)にも
及(およば)ず承引(せういん)の旨(むね)返答(へんとふ)して使者(ししや)を返(かへ)し。俄(にはか)に山海(さんかい)の珍味(ちんみ)を取寄(とりよせ)させ。邸中(ていちう)を掃浄(はききよめ)
しめて饗応(けうおう)の准備(ようい)【淮は誤】を調(とゝのへ)相(あい)待(また)れけるに其夜(そのよ)時平(ときひら)意(こゝろ)に適(かなひ)し輩(ともがら)を同伴(どうはん)して叔(しゆく)
父(ふ)の館(やかた)【舘は俗字】へ到(いた)りければ。国経(くにつね)大いに尊敬(そんきやう)して客殿(きやくでん)へ請(しやう)じ。頓(やが)て酒宴(しゆえん)をはじめ善美(ぜんび)
を尽(つく)して饗応(もてな)し。管絃(くわげん)を奏(そう)し歌舞(かぶ)をなさせて興(けう)を添(そへ)られける。偖(さて)酒宴(しゆえん)も
半酣(たけなは)に及(およ)びける頃(ころ)国経(くにつね)秘蔵(ひさう)の琵琶(びは)を取出(とりいだ)して引出物(ひきでもの)とし。時平(ときひら)へ進(しん)ぜられける
に。時平(ときひら)謝(しや)して。此(この)賜(たまもの)も忝(かたしけ)なけれども。今宵(こよひ)の御 饗応(もてなし)には北堂(きたのかた)の見参(げんざん)に入(いら)まほしく