Gallicaの日本資料を翻刻!

コレクション: コレクション1

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ページ: 422

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こそ候へと望(のぞ)まれければ国経(くにつね)は何(なん)の気(き)も付(つか)ず。夫(それ)こそ最(いと)安(やす)き御事なりとて。北堂(きたのかた) を呼出(よびいだ)し時平(ときひら)を拝(はい)せしめ。和琴(わごん)を弾(たん)ぜさせられける元来(ぐわんらい)国経(くにつね)は年(とし)稍(やゝ)闌(ふけ)て北(きたの) 堂(かた)はいまだ若(わか)かりければ。平生(つね)に夫(をつと)を厭(いとふ)意(こゝろ)ありけるとかや。時平(ときひら)は初(はじめ)て叔父(おぢ)の妻(つま)を 見らるゝに。貞文(さだぶん)が言(いひ)しにも十 倍(ばい)増(まし)たる佳人(かじん)にて。窈窕(ようてう)たる顔(かんばせ)は桃李(とうり)【挑は誤】のごとく。嬋(せん) 娟(けん)たる姿(すがた)は楊柳(やうりう)に似(に)て。羅綺(らき)にだも堪(たへ)ざる風情(ふぜい)艶(ゑん)にあてやかなるのみならず。春笋(しゆんそう)【「しゅんじゅん」とあるところ】の ごとく細(ほそ)き手(て)にて掻鳴(かきなら)す和琴(わごん)の音色(ねいろ)妙(たへ)なるに。諷声(うたふこゑ)また新鴬(しんわう)の囀(さへづ)るが如(ごと)く。人 をして襟(ゑり)もとを寒(さむ)からしむるにぞ。色好(いろごのみ)の時平(ときひら)忽(たちま)ち眼(め)を奪(うば)はれ魂(たましい)を蕩(とらか)し。頻(しきり) に目(め)を以(もつ)て情(じやう)を送(おく)り。あたし心を仄(ほの)めかされければ。北堂(きたのかた)も折々(をり〳〵)時平(ときひら)の方(かた)を見られけるゆへ 時平(ときひら)倍(ます〳〵)心 動(うご)き。左右(とやかく)いひて国経(くにつね)に多(おほ)く酒(さけ)を勧(すゝ)め酖䤄(ちんめん)させんと巧(たく)まれける。国経(くにつね)は 時平の心術(しんじゆつ)を知(しら)れず。強(しい)らるまゝ数杯(すはい)【盃は俗字】を傾(かたむ)け。果(はて)は前後(ぜんご)を忘(わする)までに酖酔(ちんすい)せら れけるを。時平(ときひら)よく見(み)すまして叔父(しゆくふ)に向(むか)ひ。今宵(こよひ)の饗応(もてなし)は誠(まこと)にまた遭(あひ)がたき盛饌(ちそう)なり