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職(しよく)に任(にん)ずべきよし宣(のたま)ひければ。菅公(かんこう)大いに驚(おどろ)き玉ひて御 身(み)に冷汗(ひやあせ)を流(なが)され御 心中(しんちう)には
我(われ)譜代(ふだい)の権臣(けんしん)時平(ときひら)を超(こえ)て関白職(くわんばくしよく)とならば。必(かなら)ず亢竜(こうりよう)の悔(くひ)有(ある)べしとて。君前(くんぜん)に低頭(ていとう)し
給ひ。君命(くんめい)誠(まこと)に忝(かたしけ)なく候へとも。臣(しん)儒宦(じゆくわん)の卑(いやし)き家(いへ)より出(いで)て右大臣(うだいじん)の高位(かうゐ)を汚(けが)し候さへ恐(おそ)
れあれば。三度(みたび)表(へう)を奉(たてまつ)りて宦(くわん)を解(とか)せ玉はん事を願(ねが)ひ奉れども許(ゆる)し玉はざるさへ天道(てんとう)へ
畏(おそれ)憚(はゞかり)候に況(いはんや)関白職(くわんばくしよく)を賜(たまは)らんとの勅詔(ちよくぜう)は存(ぞん)じもよらぬ御事にて候 斯(かく)ては左府(さふ)を先(さき)とし
歴々(れき〳〵)の貴族達(きぞくたち)君を恨(うら)み奉り。朝廷(てうてい)の乱(みだれ)の端(はし)とも成(なり)候べし。此義(このぎ)は幾重(いくえ)にも勅免(ちよくめん)な
し玉はるべしと。固(かた)く御 辞退(じたい)なし給ひけるにぞ。主上(しゆぜう)も上皇(じやうかう)も本意(ほい)なく思召(おぼしめせ)ども。迚(とて)
も承引(うけひく)まじき色目(いろめ)なれば。関白(くわんばく)任宦(にんくわん)の義(ぎ)は止(やめ)給ひける。道真公(みちざねこう)両君(りようくん)へ奏(そう)し給ひけるは。只今(たゞいま)
臣(しん)一人を召(めさ)れし事を。左府(さふ)以下(いげ)の人々(ひと〴〵)異(あやし)み疑(うたが)はれ候べければ。其(その)疑念(ぎねん)を解(とか)せ玉はんため
詩(し)の御 題(だい)を給(たまは)るべしと願(ねが)ひ給ひけるにより。主上(しゆぜう)実(げに)もと思召(おぼしめし)《振り仮名:春生_二柳眼中_一|はるはりうがんのうちにせうず》といふ
題(だい)をぞ給(たま)はりける。菅公(かんこう)右の御題(ごだい)を頂戴(てうだい)ありて君前(くんぜん)を退(しりぞ)き公卿(こうけい)の詰所(つめしよ)へ立(たち)皈(かへ)り