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鷺(さぎ)一 羽(は)飛来(とびきた)りて池(いけ)へ下(お)り魚(うを)を求食(あさり)ければ。帝(みかど)甚(はな)はだ興(けう)ぜさせ給ひ。左右(さいう)の近臣(きんしん)に
彼(あの)鷺(さぎ)を捉(とらへ)よと命(あふせ)けるにぞ。臣下(しんか)勅詔(ちよくぜう)を奉(うけたま)はり両(りよう)三人 庭(には)へおり立。洲崎(すさき)の岩蔭(いはかげ)に
隠(かく)れてうかゞひ寄(より)鷺(さぎ)を捉(とらへ)んとせしに鷺(さぎ)はおどろき池(いけ)の深(ふか)みへ游(およ)ぎ行(ゆき)更(さら)に手(て)の届(とゞ)
かざる迄(まで)に遠去(とふざかり)已(すで)に羽(は)づくろひして飛去(とびさら)んとしける故一人の臣下(しんか)声(こゑ)をかけ。やよ鷺(さぎ)よ
勅命(ちよくめい)なるぞ立去(たちさる)事(こと)勿(なか)れと言(いひ)ければ。不思議(ふしぎ)や立(たゝ)んとせし鷺(さぎ)忽(たちま)ち汀(みぎは)へ游(およ)ぎもどり
手近(てぢか)くよりけるにより。宦人(くわんにん)安々(やす〳〵)と捉(とら)へて。帝(みかど)の玉座(ぎよくざ)近(ちか)く参(まい)りて睿覧(ゑいらん)にぞ供(そな)へける
君(きみ)深(ふか)く愛(めで)させ給ひ鷺(さぎ)に五 位(ゐ)の位(くらゐ)を賜(たま)はりけり。是(これ)より世人(よのひと)五位鷺(ごゐさぎ)と称(となへ)初(そめ)しと
かや。然(しか)る折(をり)しも菅公(かんこう)入来(いりきた)り給ひければ。帝(みかど)竜顔(りうがん)麗(うるは)しく玉座(ぎよくざ)近(ちか)く召(めさ)れ。只今(たゞいま)鷺(さぎ)の
勅命(ちよくめい)なりと言(いひ)しを聞(きゝ)て己(おのれ)と捉(とらへ)られし趣(おもむ)きを語(かた)り給ひけるに。菅公(かんこう)色(いろ)を正(たゞ)し給ひ。誠(まこと)
に一天の君(きみ)の勅詔(みことのり)は鳥類(てうるい)までも畏(かしこま)り奉る事 是(かく)の如(ごと)し。況(いはん)や万民(ばんみん)に於(おい)て君(きみ)の竜駕(りうが)の
向(むか)ふ所(ところ)の者(もの)は恐(おそれ)み畏(かしこ)みて農民(のうみん)は耕(たがやし)を止(やめ)旅人(りよじん)は杖(つえ)を止(とゞ)め自然(おのづから)下々(しも〴〵)の障(さゝは)りとなり患(うれひ)