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説(ぜつ)も聞え候なんどゝ跡形(あとかた)もなき事を交々(かはる〴〵)奏(そう)し。加之(しかのみ)ならず后皇(こうぐう)は時平(しへい)の妹(いもと)にて在(ましま)
せば。左府(さふ)局長(つぼねがしら)に多(おほ)く賄賂(まいない)を与(あた)へ。如是々々(かやう〳〵)申せよと命(めい)ぜられければ。局長(つぼねがしら)は身(み)に
得(とく)の付(つく)を悦(よろこ)び密(ひそか)に后皇(こうぐう)に讒言(ざんげん)しけるやうは。右大臣殿(うだいじんどの)の御事 婿君(むこぎみ)たる斉世親王(ときよしんわう)を
天位(みくらゐ)に即(つけ)まゐらせんため。帝(みかど)を咒咀(のろひ)崩御(ほうぎよ)なさせ奉らんと巧(たく)み給ふよし。急(いそ)ぎ帝(みかど)へ其由(そのよし)
を奏(そう)し給へと。信(まこと)しやかに言上(まうしあげ)けるにぞ。后皇(こうぐう)は御 年(とし)若(わか)く素(もとよ)り弁(わきま)へなき女性(によせう)の御事 成(なれ)
ば大きに駭(おどろ)き給ひ。帝(みかど)へ局(つぼね)の申せし趣(おもむ)きを内奏(ないそう)あり。右大臣(うだいじん)を退(しりぞ)け給へと時々(より〳〵)に御 勧(すゝめ)
ありけり。如此(かくのごとく)内外(ないぐわい)の讒奏(ざんそう)度(たび)重(かさな)りければ。さしも聖明(せいめい)の帝(みかど)も始(はじめ)は信(しん)じ玉はざりけれども
後々(のち〳〵)は少(すこ)し御 疑(うたが)ひの睿慮(ゑいりよ)を生(しやう)じ給ひ。且(かつ)は御 遊興(ゆふけう)御狩(みかり)などに付(つき)ても菅公(かんこう)度々(どゝ)諫(いさめ)
給ひしゆへ菅公(かんこう)を疎(うと)み給へり。されども御 慎(つゝしみ)深(ふか)き御 本性(ほんぜう)なれば。猶(なを)色(いろ)にも露(あら)はし玉はず
何(なん)の御 沙汰(さた)もなかりければ。時平(しへい)を首(はじめ)とし一 味(み)合体(がつたい)の侫臣(ねいしん)們(ら)は沓(くつ)を隔(へだて)て足(あし)を掻(かく)心地(こゝち)
しけり。斯(かく)て昌泰(しやうたい)三年も暮(くれ)明(あく)る四年に改元(かいげん)ありて延喜(えんぎ)元年と暦号(れきがう)し給ふ其年(そのとし)