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義(ぎ)の志(こゝろざ)しは喜(うれし)けれども。右(みぎ)申聞すごとくなれば。参内(さんだい)して歎奏(たんそう)する所存(しよぞん)なしと悟(さと)り
きり玉ひし御一 言(ごん)に。島田(しまだ)。田口(たぐち)。渡会(わたらへ)はじめ。其余(そのよ)の誰々(たれ〳〵)も。反(かへ)し奉るべき詞(ことば)もなく。皆(みな)
無念(むねん)の涙(なみだ)にくれてぞ居(ゐ)たりける。去程(さるほど)に同年(どうねん)正月廿五日。上卿(じやうけい)には大納言(だいなごん)菅根(すがね)識事(しよくじ)【職の誤ヵ】
には右中弁(うちうべん)希世(まれよ)時平(しへい)の下知(げぢ)を受(うけ)撿非違使(けひゐし)の下司(したつかさ)。看督長(かとのゝおさ)に異(あやし)の張輿(はりごし)五挺(いつかた)舁(かゝ)せ
菅家(かんけ)に到(いた)りて発足(ほつそく)をせり立(たて)ける。菅公(かんこう)は兼(かね)て期(ご)し給ひし事なれば。右大臣(うだいじん)の衣(い)
冠(くわん)を脱捨(ぬぎすて)白(しろ)き狩衣(かりぎぬ)烏帽子(えぼし)を着(めし)て。御台(みだい)御子息(ごしそく)方(がた)姫君(ひめぎみ)達(たち)と別離(わかれ)の土器(かはらけ)を酌(くみ)
かはし給ひけるが。流石(さすが)無実(むしつ)の罪(つみ)に沈(しづ)み恩愛(おんあい)の妻子(つまこ)と生別(いきわかれ)し給ふを悲(かなし)み給ひ一 首(しゆ)の
和歌(わか)を詠(えい)じ給ひ。渡会春彦(わたらへはるひこ)を御 使(つかひ)にて。仁和寺(にんわじ)に在(ましま)す法皇(ほふわう)に献(たてまつ)【ママ】給ふ御 歌(うた)に曰
ながれ行(ゆく)わが身(み)藻屑(もくず)となりぬとも君(きみ)柵(しがらみ)となりてとゞめよ
春彦(はるひこ)是(これ)を給(たま)はりて泣々(なく〳〵)仁和寺(にんわじ)の御所(ごしよ)へ赴(おもむ)きけり。菅公(かんこう)は島田忠臣(しまだたゞおみ)に御台所(みだいどころ)姫(ひめ)
君(ぎみ)達(たち)の御 介抱(かいほう)の義(ぎ)を託(たく)し給ひ。御 身(み)は田口辰音(たぐちたつおと)を随従(おんとも)とし張輿(はりこし)に乗(めし)給ひければ