Gallicaの日本資料を翻刻!

コレクション: コレクション1

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しらず皆(みな)何心(なにごゝろ)なく坐睡(ゐねふり)て在(あり)けるに。六 角堂(かくどう)東寺(とうじ)などに晨朝(じんでう)の鐘(かね)を撞鳴(つきなら)しけるに 打駭(うちおどろ)き眼(め)を覚(さま)して天(そら)を見れば。早(はや)東雲(しのゝめ)の頃(ころ)なるにぞ。大いに駭(おどろ)いて田口辰音(たぐちたつおと)を呼出(よびいだ)し 少時(しばし)の内(うち)に仰(あふせ)けるゆへ。私(わたくし)に此館(このやかた)へ入(いれ)進(まい)らせ候ひしに。早(はや)夜(よ)も明方(あけがた)になり候。疾々(とく〳〵)出(いで)させ給ふ やう言上(まうしあげ)玉はれと言(いひ)けるにぞ。辰音(たつおと)諾(だく)して菅公(かんこう)へ右の由(よし)申上ければ。公(こう)も鐘声(かねのこゑ)御 心(むね)に徹(てつ) し。夜(よ)明(あけ)なば人目(ひとめ)も恥(はづか)【耻は俗字】しとて。御 名残(なごり)は尽(つき)せねども心強(こゝろづよ)く立出(たちいで)給ふ。御台(みだい)姫君(ひめぎみ)達(たち)は今(いま) 更(さら)御 別(わかれ)の悲(かな)しさに声(こゑ)を惜(をしま)ず泣沈(なきしづみ)給ひ。七ッ五ッの幼(いとけな)き姫君(ひめぎみ)は父君(ちゝぎみ)の袂(たもと)に搥(すが)り裾(すそ)に纏(まつは) りて泣叫(なきさけび)給ふ。目(め)も当(あて)られぬ風情(ふぜい)なり。公(こう)は是等(これら)をも振払(ふりはら)ひ給ひて立出(たちいで)給ふに早(はや)明方(あけがた)の 仄明(ほのあか)きに御 愛樹(あいじゆ)の紅梅(かうばい)今を盛(さかり)と咲乱(さきみだれ)しを御 覧(らん)じ。是(これ)ぞ都(みやこ)の春(はる)の名残(なごり)と思召(おぼしめし)   東風(こち)ふかば匂(にほ)ひをこせよ梅(うめ)のはな主(あるじ)なしとて春(はる)なわすれそ と詠(えい)じ給ひまた桜(さくら)を御 覧(らん)あるにまだ花(はな)は咲(さか)ざれども終(つひ)の盛(さかり)を思(おぼ)しやりて   さくら花(ばな)ぬしを忘(わす)れぬものならば吹(ふき)こん風(かぜ)にことづてはせよ