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覧(らん)じて近(ちか)く召(めさ)れ。いかにや春彦(はるひこ)法皇(ほふわう)の御所(ごしよ)へ参(まい)り予(よ)が歌(うた)を献(たてまつ)りしやと問(とひ)給ふ。春(はる)
彦(ひこ)砂地(すなち)に跪(ひざまづ)き。さん候 御室(おむろ)御所(ごしよ)へ参上(さんぜう)し。御 短冊(たんざく)を差上(さしあげ)候ところ。法皇(ほふわう)以(もつて)の外(ほか)に驚(おどろ)
かせ給ひ。主上(しゆぜう)御 年若(としわか)くして讒者(ざんしや)の詞(ことば)に惑(まどは)され給ひ。朝廷(てうてい)の忠臣(ちうしん)たる道真(みちざね)を無罪(つみなき)に
左遷(させん)【迁は俗字】し給ふこそ薄情(うたて)けれ。今の世(よ)に道真(みちざね)なくんば万民(ばんみん)の歎(なげ)き世(よ)の騒(さはぎ)と成(なり)ぬべし。帝(みかど)
とは申せども我子(わがこ)なり。参内(さんだい)して諫(いさ)め道真(みちざね)が流罪(るざい)を申 宥(なだ)むべし。你(なんじ)我(われ)に随(したが)ひ来(きたれ)よ
と宣(のたま)ひ御 輿(こし)にも乗(めし)玉はず御 草履(ざうり)を履(はい)て大内(おほうち)へ行幸(みゆき)なし給ひ。上西門(じやうさいもん)より入御(じゆぎよ)あり
清涼殿(せいれうでん)に近着(ちかつき)給ひ。開門(かいもん)せよと宣(のたま)へども。左大臣殿(さだいじんどの)の計(はから)ひと相見(あいみ)へ敢(あへ)て御 門(もん)を開(ひら)く
人もなく。増(まし)て御 執奏者(とりつぎのもの)も候はねば。法皇(ほうわう)甚(はな)はだ憤(いきどふ)らせ給ひ。我(われ)に何(なに)の咎(とが)ありて参(さん)
内(だい)を拒(こば)むや。門(もん)を開(ひら)かずんば開(ひら)くまで待(まつ)べしと宣(のたま)ひ。大庭(おほには)の椋樹(むくのき)の下(もと)に停立(たゝずみ)給ひ。日(ひ)
の暮(くれ)るをも厭(いと)ひ玉はず待(また)せ給ふうち。仁和寺(にんわじ)より御 輿(こし)を舁(かき)て大 勢(ぜい)参(まい)られ還御(くわんぎよ)
勧(すゝ)め奉れども。法皇(ほふわう)更(さら)に用(もち)ひ玉はず。余寒(よかん)厲(はげ)しき終夜(よもすがら)。あやなき闇(やみ)に卯(う)の剋(こく)まで