Gallicaの日本資料を翻刻!

コレクション: コレクション1

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ページ: 462

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蘇武(そぶ)はしらず。雲井(くもゐ)を皈(かへ)る鴈(かり)【注】がねに文(ふみ)言伝(ことづて)ん術(てだて)もなく。岩(いは)に碓(くだく)る浪(なみ)の音(おと)に御心を痛(いた) ましめ。沖(おき)に汐(しほ)吹(ふく)亀(かめ)の音(おと)に御 魂(たましい)を寒(さむ)からしめ給ひ。泉郎(あま)の呼声(よびこゑ)漁火(いさりび)の影(かげ)見物(みるもの)聞物(きくもの) 御 涙(なみだ)の種(たね)ならぬはなく。都(みやこ)に残(のこ)り給ふ御台(みだい)姫君(ひめぎみ)達(たち)の御 歎(なげ)き。又は国々(くに〴〵)へ流(なが)され給ひし 御 子息(しそく)方(がた)の御 物思(ものおもひ)を推量(おしはか)らせ給ひ。袖(そで)の干(ひ)る間(ま)もなく。御 鬱陶(うつとう)の余(あま)りに御 船(ふな) 心 生(しやう)じて伏悩(ふしなや)ませ給ひ。御 食事(しよくじ)も進(すゝ)み玉はねば。春彦(はるひこ)辰音(たつおと)大いに駭(おどろ)き。警固(けいご)の武士(ぶし) と商議(しやうぎ)し。暫(しばら)く陸地(くかぢ)を歩(あゆま)せ奉らば御 心地(こゝち)も整(なを)らせ給ふべしとて。播州(ばんしう)印南郡(いなみごほり) 曽根(そね)へ船(ふね)を着(つけ)て陸(くが)へ下(おろ)し奉り。駅馬(えきば)を求(もとめ)て乗(のせ)まいらせ。春彦(はるひこ)辰音(たつおと)宦人(くわんにん)も随従(おんとも) して行(ゆき)ければ。遠近(おちこち)の里民(りみん)菅公(かんこう)を拝(はい)せんとて。老(おひ)たるを扶(たす)け幼(いとけな)きを負(おひ)て路(みち)の傍(かたはら)に 群(むらが)り涙(なみだ)を流(なが)さぬは無(なか)りけり。菅公(かんこう)馬上(ばせう)にて松(まつ)の枝(えだ)を折取(をりとり)給ひ。予(われ)此度(このたび)勅勘(ちよくかん)を 蒙(かうむ)る事。身(み)に犯(おか)せる罪(つみ)無(なく)んば此(この)松根(まつね)を生(せう)じて栄(さか)ゆべし。もし又 犯(おか)せる罪(つみ)あらば 其(その)まゝ枯(かれ)ぬべしとて。馬(うま)より下(おり)給ひて路(みち)の辺(ほとり)にさし給ひて往過(ゆきすぎ)給ひけるに。後(のち)果(はた)し 【注 鳫は、鴈の古字「𩾦」の略字】