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の笥(はこ)に納(おさ)め朝夕(あさゆふ)に拝礼(はいれい)し給へり。此(この)一 条(でう)を以(もつ)ても菅公(かんこう)帝(みかど)を聊(いさゝか)も恨(うら)み玉はざる事を知(しる)に
足(たれ)り。然(しかる)に今九月十日なれば。去年(きよねん)の今宵(こよひ)の事を思(おも)ひ出(いだ)し給ひ。誠(まこと)に人界(にんがい)の栄枯(ゑいこ)定(さだめ)
なく盛衰(せいすい)掌(てのひら)を覆(かへす)が如(ごと)くなるを長歎(てうたん)し給ひて作(つく)らせ給ふ御 詩(し)に曰
去年(きよねん)今夜(こんや)《振り仮名:侍_二清涼_一|せいりようにじし》 秋思(しふしの)詩篇(しへん)独(ひとり)断腸(だんちよう)
恩賜(おんしの)御衣(ぎよい)今(いま)《振り仮名:在_レ此|こゝにあり》 捧持(ほうじして)毎日(まいじつ)《振り仮名:拝_二余香_一|よかうをはいす》
誠(まこと)に懐旧(くわいきう)の御 愁情(しふじやう)の程(ほど)ぞ悼(いた)ましかりける。さらぬだに秋(あき)の物悲(ものかな)しき。荻(おぎ)の上風(うはかぜ)萩(はぎ)の下(した)
露(つゆ)籬(まがき)にすだく虫(むし)の音(ね)も何(いづ)れ御 涙(なみだ)の種(たね)ならぬはなし。程(ほど)なく九月十五 夜(や)にもなり
一 天(てん)雲(くも)なく霽(はれ)て月(つき)清朗(せいらう)と澄(すみ)昇(のぼり)けるを御 覧(らん)ずるにも。都(みやこ)に在(いま)せし時(とき)殿上(てんぜう)の月見(つきみ)の
御宴(ぎよえん)に侍(じ)し給ひて。詠哥(えいか)詩作(しさく)に懐(おもひ)を述(のべ)興(けう)じ楽(たのし)ませ給ひしも。今は盧生(ろせい)が夢(ゆめ)と成
て事訪(こととひ)奉る者(もの)とては沖津(おきつ)汐風(しほかぜ)のみなれば。独(ひとり)御心を友(とも)として七 言律(ごんりつ)の詩(し)を賦(ふ)し給ふ
黄(きばみ)萎(しぼめる)顔色(がんしよくの)白霜頭(はくそうとう) 況(いはんや)復(また)千余里(せんより)外(ぐわいに)投(とうぜらるゝをや)