Gallicaの日本資料を翻刻!

コレクション: コレクション1

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ページ: 488

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便(たより)を得(え)給はず徒(いたづら)に年月(ねんげつ)を送(おく)らるゝ内(うち)終(つひ)に菅公(かんこう)薨去(かうきよ)し給へりと聞(きこ)えしかば。僧正(そうぜう)哀悼(あいとう)の 涙(なみだ)に三衣(さんえ)の袖(そで)を絞(しぼり)給ひ会者定離(ゑしやでうり)の理(ことは)りを観(くわん)じ。せめては亡跡(なきあと)を弔(とふら)【吊は俗字】ひ進(まいら)せんと朝夕(てうせき) 妙経(めうけう)を読誦(どくじゆ)し給ひけるに。禁廷(きんてい)より災厄(さいやく)消滅(せうめつ)の加持(かぢ)を修(しゆ)すべしとの倫命(りんめい)下(くだ)りし かば僧正(そうぜう)勅命(ちよくめい)に従(したが)ひ別所(べつしよ)の菴室(あんしつ)に閉籠(とぢこも)り丹誠(たんせい)を抽(ぬきん)でゝ加持(かぢ)の修法(しゆほふ)を行(おこな)ひ清(すま) して御座(おはし)ける所(ところ)一夜(あるよ)菴(いほり)の扉(とぼそ)を打敲(うちたゝ)く人あり。僧正(そうぜう)数珠(じゆず)の手(て)を止(とめ)て誰(た)そやと応(こた)へ 扉(とぼそ)を開(ひら)きて月影(つきかげ)に其(その)人を見給へば豈(あに)はからん去(い)ぬる延喜(ゑんぎ)さん三年二月。西府(さいふ)にて薨去(かうきよ)し 給ひしと聞(きこ)えし菅丞相(かんしやう〴〵)。衣冠(いくわん)正(たゞ)しく笏(しやく)を把(とつ)て停立(たゝずみ)玉へり。其(その)顔色(がんしよく)は稍(やゝ)憔悴(せうすい)して 見え給ふにぞ。僧正(そうぜう)甚(はなは)だ訝(いぶか)り給ひ。思(おも)ひよらずよ道真公(みちざねこう)御身(おんみ)は五年(ごねん)以前(いぜん)筑紫(つくし)にて 薨(かう)じ給ひしと伝聞(つたへきく)素(もとよ)り師檀(しだん)の契(ちぎり)深(ふか)かりし御 事(こと)なれば悲哀(かなしみ)に堪(たへ)ず。せめては後(ご) 世(せ)仏果(ぶつくわ)を得(え)給ふやう。朝暮(てうぼ)御 跡(あと)を弔(とふら)【吊は俗字】ひ候に。在(あり)しに変(かは)らぬ対顔(たいがん)をなし奉る不(ふ) 思議(しぎ)さよ。先々(まづ〳〵)此方(こなた)へと請(しやう)じ入(いれ)。賓主座(ひんしゆざ)定(さだ)まりて有合(ありあふ)柘榴(ざくろ)を出(いだ)し湯(ゆ)を進(まい)らせ