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られ偖(さて)今宵(こよひ)は何(なに)のため光臨(くわうりん)なし給ふやと咨(とひ)給ふに。菅公(かんこう)答(こたへ)給ふらく。誠(まこと)は弟子(ていし)道真(みちざね)無(む)
実(しつ)の虚名(きよめい)晴(はれ)ず五 年(ねん)以前(いぜん)西府(さいふ)の雲(くも)と消(きえ)。五 温(うん)の形(かたち)は土中(どちう)に朽果(くちはつ)れども。一 念(ねん)の霊(れい)は尚(なほ)
陽土(やうど)に遺(のこ)れり。抑(そも〳〵)道真(みちざね)不敏(ふびん)なりといへども。君王(くんわう)の御 為(ため)豪髪(がうはつ)も私(わたくし)を存(そん)せず。心(こゝろ)を小(せめ)
己(おのれ)に克(かつ)て。御代(みよ)をして尭舜(ぎやうしゆん)の化(くは)に比(たぐへ)んと。肺肝(はいかん)を碓(くだき)し其(その)甲斐(かひ)なく。讒舌(ざんぜつ)の為(ため)に叛逆(ほんぎやく)の
汚名(おめい)を称(となへ)られ無辜(つみなう)して父子(ふし)五所(ごしよ)に謫(てき)せらるゝ事。其(その)怨(うらみ)無(なき)にあらざれども。是(こ)は時(とき)の不(ふ)
肖(せう)身(み)の不運(ふうん)に拠(よりどころ)なれば露(つゆ)許(ばかり)も君(きみ)を怨(うらみ)奉る心は候はず。然(しかれ)ども時平(ときひら)以下(いげ)の讒徒(ざんと)。君(きみ)を
言(まうし)惑(まどは)し道真(みちざね)を退(しりぞけ)し罪(つみ)を。天帝(てんてい)敢(あへ)て恕(ゆる)し玉はず。遠(とふ)からずして帝闕(ていけつ)に災厄(さいやく)を降(くだ)し
侫臣(ねいしん)們(ら)を罰(ばつ)し玉はんとなり。然(しかれ)ば王宮(わうきう)に天災(てんさい)の及(およ)ぶ期(ご)に臨(のぞ)み。其(その)災変(さいへん)を禳(はらは)んと。朝家(てうか)よ
り尊師(そんし)を召(めさ)るゝ事候べけれども。願(ねがは)くは事を左右(さいう)に托(たく)して下山(げさん)なし給はず。天威(てんい)に逆(さか)ひ給ふ
事 勿(なか)れ。此義(このぎ)を告(つげ)奉らんため仮(かり)に形(かたち)を現(あらは)し尊顔(そんがん)に向(むか)ひ候なりと曰(のたま)ひければ。僧正(そうぜう)聞(きゝ)給ひ
て仰(あふせ)らるゝ所(ところ)理(り)の至極(しごく)に候。天帝(てんてい)侫臣(ねいしん)を罰(ばつ)し給ふと候へば。君(きみ)より貧道(ひんどう)を召(めさ)るゝとも二 度(ど)