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昼(ちう)さながら暗夜(あんや)のごとく風雨(ふうう)倍(ます〳〵)厲(はげ)しく成(なり)ければ貴賎(きせん)とも魂(たましい)を消(け)し女 童(わらべ)は泣叫(なきさけび)今(いま)や
世界(せかい)も滅(めつ)し尽(つく)るかと危(あやぶ)みけり。殊更(ことさら)内裏(だいり)には雷鳴(らいめい)わきて夥(おびたゝ)しく雷(かみなり)の落(おつ)る事 幾所(いくところ)とも
数(かづ)しらず。誰(た)が言出(いひいだ)せしか。此(この)天変(てんべん)は無罪(つみなき)右大臣殿(うだいじんどの)を左遷(させん)【迁は俗字】し給ひしゆへ。菅公(かんこう)の怨霊(おんりよう)の
祟(たゝり)【崇は誤】をなし給ふ所(ところ)なりと言(いひ)詈(のゝし)り。百司(ひやくし)百宦(ひやくくわん)君(きみ)を守護(しゆご)し奉らんともせず。周障(あはて)狼狽(うろたへ)て逃(にげ)
騒(さは)ぎけり。中にも大納言(だいなごん)清貫(きよつら)は菅霊(かんれい)の祟(たゝり)【崇は誤】なりと聞(きい)て大いに恐怖(きやうふ)し。主上(しゆぜう)の御座(おはしま)す常(じやう)
寧殿(ねいでん)へ逃(にげ)避(さけ)んと後涼殿(こうりようでん)の廊下(らうか)を走(はし)りけるに。眼前(めさき)へ一 団(だん)の雷火(らいくわ)噇(どう)ど落(おち)けるにぞ。清(きよ)
貫(つら)わつと魂断(たまぎり)て尻居(しりゐ)にはつたと仆(たをれ)ける。其内(そのうち)に水干(すいかん)の袖(そで)に雷火(らいくわ)燃付(もえつき)ければ益(ます〳〵)駭(おどろ)き周(あは)
障(て)火(ひ)を消(けさ)んと廊下(らうか)を転(ころ)び回(まは)り。救(すく)へ〳〵と叫(さけぶ)所(ところ)へ再(ふたゝ)び霹靂(へきれき)大いに震鳴(ふるひなり)清貫(きよつら)が五 体(たい)
の上に落(おち)たりけり。何(なに)かは以(もつ)て堪(たま)るべき首(くび)も手脚(てあし)も切々(きれ〴〵)に成(なり)燻(ふすぼ)り反(かへつ)て死(し)しけるは目(め)も当(あて)
られぬ風情(ふぜい)なり。右中弁(うちうべん)希世(まれよ)は周障(あはて)騒(さは)ぎ大庭(おほには)へ逃下(にげおり)けるに。雷火(らいくわ)のために皃(かほ)を焼(やか)れて仆(たをれ)
死(し)し。貞文(さだぶん)は勇気(ゆうき)を以(もつ)て難(なん)を遁(のが)れんと弓(ゆみ)に矢(や)を番(つが)へ引張(ひきはつ)て逃行(にげゆく)を雷神(らいじん)近付(ちかづい)て