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蹴殺(けころ)しけり。紀蔭連(きのかげつら)は焰(ほのふ)にむせて死亡(しぼう)し。其余(そのほか)時平(しへい)に一 味(み)せし輩(ともがら)は悉(こと〴〵)く雷(らい)の為(ため)に撃(うた)
れ死(し)しけるゆへ。弥(いよ〳〵)菅公(かんこう)の祟(たゝり)【崇は誤】也と恐(おそれ)惑(まど)ひける。左大臣(さだいじん)時平(ときひら)も今度(こんど)の天災(てんさい)は菅公(かんこう)の祟(たゝり)【崇は誤】
なりと一 途(づ)に思(おも)ひこみ恐懼(きやうく)しながら奸智(かんち)を回(めぐら)し。光(ひかる)定国(さだくに)菅根(すがね)等(ら)に向(むか)ひ。菅丞相(かんしやう〴〵)在(ざい)世の
時(とき)は帝(みかど)を重(おも)んじ敬(うやま)ふ事人に過(すぎ)たれば。其(その)亡霊(ぼうれい)も玉体(ぎよくたい)に近付(ちかづく)事はよもあらじ。君(きみ)に引(ひつ)そひ
て居(ゐ)なば雷難(らいなん)を遁(のが)るべしと言(いは)れけるにぞ。皆(みな)尤(もつとも)と同意(どうい)し。帝(みかど)の御座(ござ)へ参(まい)り玉体(ぎよくたい)を
守護(しゆご)し奉るといふを名(な)とし。四人(よにん)とも御衣(ぎよい)にとり付(つい)て戦慄(ふるひわなゝき)ける。素(もとよ)り雷災(らいさい)は菅公(かんこう)の霊(りよう)
の為(なす)ところならざれども。流石(さすが)十 善(ぜん)の天子(てんし)の威(い)に恐(おそ)れ玉体(ぎよくたい)に咫尺(ちかづく)事なかりければ。讒者(ざんしや)の
面々(めん〳〵)も僥倖(さいはひ)に雷難(らいなん)を免(まぬかれ)けり。されども風雨(ふうう)雷電(らいでん)は尚(なを)止(やま)ず。日(ひ)は已(すで)に暮(くれ)けれども灯燭(とうしよく)を点(てん)
ずる人もなく。宮殿(きうでん)皆(みな)暗闇(くらやみ)にて。只(たゞ)透間(すきま)なく閃(ひらめ)く電光(いなびかり)の影(かげ)凄(すさま)じく。此所(こゝ)彼所(かしこ)に泣叫(なきさけ)ぶ女房(にようばう)
上童(うへわらは)の声(こゑ)叫喚(けうくわん)大叫喚(だいけうくわん)の地獄(ぢごく)も斯(かく)やと怪(あや)しまれけり。左府(さふ)時平(ときひら)心 付(つき)帝に向(むか)ひ奉り。睿(ゑい)
山(ざん)の座主(ざす)尊意僧正(そんいそうじやう)を召(めさ)れ加持(かじ)させ玉はゞ。天変(てんべん)の止(やみ)候事も候べしと奏(そう)しければ。帝(みかど)実(げに)